敢えて深くは考えない
「なまえー」 夕飯を食べた後、自室のベッドに寝転がり雑誌を読んでまったりしていると、突然ガチャリとドアが開いて、隣に住む同い年の幼馴染が入ってきた。 「ちょっと!ノックくらいしてよって言ってるじゃん」 「ええやん、俺らの仲やろ?」 「どんな仲のつもりか知らないけど、何にも良くないからね、侑」 慌てて起き上がり雑誌を閉じて枕の下に隠し、幼馴染…宮 侑の方を向く。 「例えばさぁ、私が着替え中だったらどうするの?」 「そんなん、襲ってええんかな?ラッキー!思うだけやん」 「アホか!そんなわけあるか!」 溜め息まじりに「治はノックしてくれるよ」と侑の双子の兄弟を引き合いに出すと、やっと「ほな、次は気ぃ付けるわ〜」と言った。信用ならないけど。 「あ、で?何しに来たの?」 「報告があったんやけど…、それより、なまえ、さっき何隠したん?」 う…、目敏いな…! 「な、何でもいいじゃん」 「あ」 「え?」 「はい、隙あり〜」 「あ、ちょ、」 侑の『あらぬ方向を指差して視線を逸らす』と言う超古典的な方法に引っかかった私は、部屋の隅の方を向く。 もちろん何も無い。そして、その隙に侑は私の枕の下に手を滑り込ませ、雑誌を引き抜いた。 「…月バリやん」 「…そーだよ」 「さっきの質問答えるとな?今月の月バリに俺のインタビュー記事載ってるから見てやーて言お思て来たんやけど」 「ふ、ふーん」 「必要無かったみたいやなー。なまえちゃん、ばっちりチェックしてくれてん」 「ち、違うから、たまたま、偶然」 「バレーあんまり興味無いくせに」 本当に嬉しそうにニヤニヤした。この顔されるのムカつくからバレたくなかったのに。 侑は月バリのページをペラペラ捲りながら、勝手に人のベッドに腰掛ける。新鋭のバレーの強豪でレギュラーやってるだけあって、そこそこ体格良いからベッドが嫌な音を立てて軋む。 「他に面白い記事ある?」 「全部読んだんちゃうん?」 「え、まだ侑のページしか読んでない」 「真っ先に読んでくれたんや〜」 「だ、だってその為に買ったんだし…」 またニヤニヤとこちらを見るので、恥ずかしくなって視線を逸らす。 すると、侑は急に真剣な表情で、 「…なぁ」 「何ー?」 「…ちゅうしてええ?」 「なんでそうなる?!」 月バリをローテーブルに投げ、顔を近付けてきた。 「なまえがかわええことするからやん」 「待っ、ち、近い近い近いー!」 当たり前だが、侑は隣に住む幼馴染であって、恋人では無い。その突拍子も無い行動に焦って、侑の胸を両手で押すが、現役バレー部員と帰宅部では力の差は歴然だ。両手首を掴まれ、更に近付かれたので、思わず目を瞑る。 来たる感触に身を構えるが、チュッと言う可愛いリップ音と共に侑の唇が触れたのは、私の鼻だった。 「今はこれで我慢したるわ〜」 そう言って立ち上がった侑を見上げる。多分相当なマヌケ面だったんだろう。ニヤニヤ顔に戻った侑は、人差し指で自分の唇に触れながら「期待した?」なんて言う。 「するか!アホ!」 言葉と一緒に投げた枕は、私の部屋から退散した侑が閉めたドアにぶつかって落ちた。 侑が投げた月バリを再び手に取る。既に折り癖の付いたページを開くと、侑の写真とインタビュー記事。さっきまで同じ部屋にいた幼馴染が、こんな風に全国誌に載ってるなんて、不思議な気分だった。 |