バッドラ
エピローグ〜箱は開けられた〜


そして、昼休み。友達たちに結局侑と付き合うことになった事を報告すると、驚きはしたものの、みんな口を揃えて「やっぱりなぁ」と言う。

「え、何その反応」
「そんな気ぃしてたもん」
「なまえ、思ってるよりわかりやすいで?」
「宮兄弟応援するために自分は部活も入らんかったやん」
「宮兄弟写ってるからって、バレー雑誌を買いに発売日に本屋寄ったりな」
「えー…」

「まぁ良かったやん」「おめでとう」と言いながら、みんなお祝いと称しておかずをちょっとずつくれたので、私は渋い顔をしながらも、素直に受け取った。どれも美味しかった。



「なまえ」
「あ、治」

帰り際、玄関でちょうど部活に行く治に会った。いつも侑も一緒だから、どうしたのか聞こうとしたら、聞く前に「ツムは日直」と言われる。

「そう…。治、あのね、」
「結局ツムと付き合うんやろ?」
「うん、そうなの。だから、なんて言うか、その節はお世話になりました」

そう言うと、治は「ほんまにな」と言いながら疲れた顔をする。

「…もう既にツムが惚気てうざい」
「え、そんなこと言われても…」
「ツム、俺になら何言うてもええ思ってるで、絶対」
「てか、そんなに話すようなこと無い気がするんだけど」
「吹っ切れたんか、今までのことで思う事があったこととかも話してくんねん」
「へ、へぇ…」

部活前なのに治がグッタリしてたのは、その所為らしい。
でも、もう自覚してしまった私は、そんな風に侑が私の話をしてくれてることすら嬉しくて、少し頬が緩んでしまう。目敏くそれを見た治に「へぇやないで、ほんま」と咎められた。

「まぁ、頑張って」
「ツムの対応?」
「いや、それもそうかも知れないけど、部活」
「部活…」

「ツムに会うの嫌やなぁ…」と双子なのに無茶を言う治。「流石に部活中は言わないでしょ」と一応慰めてから別れた。



夕飯を食べてから、自室のベッドの上でいつも通りゴロゴロする。別に侑と付き合ったからって生活が激変するようなことはなかった。まぁまだ1日しか経ってないから当たり前と言えば当たり前か。そんなことをボーッと考えていると部屋のドアが急に開いた。

「なまえー」
「ふぁっ?!」

飛び込んできた侑に驚いて変な声が出る。部活終わって直ぐに来たらしい。侑は私に駆け寄って、そのまま抱き着いて来る。

「え、ちょっ、重いって」
「今日全然会えへんかったから寂しかったわ〜」
「別に会えない日なんて今までだってあったじゃん」
「アホ!幼馴染と彼女じゃ寂しさのレベルが違うやろ」

アホ呼ばわりされてるけど、彼女という響きは予想以上に心地良くて、ニヤケてしまった。

「俺が寂しがってんのに、何笑てんねん」

そう言って拗ねるので、また侑を抱きしめ返しながら謝っといた。

「…そんなんで誤魔化されへんで」
「じゃあどうしたらいい?」
「そうやなぁ…、あ、なまえからキスして」
「はぁ?」
「はぁ?やないで」
「やだよ。恥ずかしいし」
「えー!ええやんかぁ!」

侑の要求に怪訝な顔をすると、侑が人の上に乗ったまま暴れるので、恥ずかしい気持ちを飲み込んで、侑にそっとキスをした。…いつかの侑のように鼻に。

「い、今はこれで勘弁して…」
「…しゃあないなぁ」

そう言いながらも満足したらしい侑は「後でサムに自慢しとこう」とか呟いてた。治、ごめん。



既に色々あったような気もするけど、まだまだ始まったばかり。多分これからも色々あるんだろう。これからの事を考えると悩ましいけど、悩んでも仕方ないのだ。だって箱は開けられた。中身が何だろうとも、私のこの恋は始まってしまったのだから。だから私は、下手くそな恋の物語を侑と2人で頑張ろうと決めた。

でも、私は確信に近い何かを感じている。きっと、良い物語になるって事を。


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