対象の対称
その後、予鈴が鳴ったので、侑への返事は保留にして私は自分の教室へ逃げるように帰った。 教室に入ると治と目が合う。視線が「なんで授業サボったん?」と言っていたので、LINEで「説明したいし、相談したいから放課後に家来て」と送った。すぐさま、ふざけたスタンプでOKと返信が来たので、私もふざけたスタンプでよろしく、と返しておいた。 そして、家に帰って夕飯を食べた後、自室でソワソワ待っていると、治も早く話が聞きたかったらしく、部活帰りに直接私の家に来た。「全然部活に集中出来へんかったわ」と言う治に苦笑いしてると「それで、どないしたん?」と、早速治に切り込まれた。 「…侑に…」 「ツム?」 「…侑に拉致られて、それで、なんか、キスされた」 「は?!」 私の応えに驚く治。そりゃそうだろう、当の本人である私だって未だに信じがたい。 「マジのやつ?ツム何しとんの?」 「私が訊きたい…」 とりあえず経緯を説明すると、治は「ほら、俺が言っとったとおりやろ?」と私を見た。 「…それで、なまえはどう返事したん?」 「どうって…」 「ツムと付き合うやろ?」 「保留にした…」 「保留?なんでやねん」 「だって、まだ、気持ちの整理が…」 「なまえの気持ちの整理なんて待っとったら、いっで経っても答えなんか出ぇへんわ」 「えー、そんなこと、ないよ」 「…多分」と小さく付け足すと、治はウンザリしたような顔を向けてくる。 「このままやとツムがめんどくさそうやから、早よ答え出して」 「そんなこと言われても…」 「何を迷ってんねん」と言う治に、思うところを話す。 「だって、私は今までの関係で満足してたんだもん。ずっとそれで良かったのに、今さら変われって言われたってよくわかんない」 「そないなこと言うても、ツムは変わりたい思うてたんやろ?それで、行動したと」 「うん…」 私の言葉に事実を合わせてから、治はちょっと考えて、更に言葉を重ねる。 「…なぁ、なまえ。そんなら、もう元には戻れへんことくらいわかっとるんやろ?ほんで、そしたら、もう答えなんか出とんのとちゃう?」 「えっ、何でそう思うの?」 「何でて、だってなまえ、さっきのツムの話するとき、嫌そうな顔してへんかったもん」 治にそう言われて思い返す。確かに、侑に好意を寄せられているということは嬉しい。それなのに、素直に喜べなかったのは、関係が変わることで、お互いの気持ちが変わってしまうことが怖かったから。だけど、侑が告白してくれたことで、関係が変わってしまうのが確実なら、私は前に進みたい。侑と同じ種類ではないかもしれないけど、私も侑のことはずっと好きだったから。 その気持ちを言うと、治は「それでええやん」と言う。 「なまえのことだから、考えすぎたってええことないやろ」 「なんか適当じゃない?」 「そんなもんちゃう?」 「…ねぇ、やっぱり治、面白がってない?」 「そらそうや。ぶっちゃけ、めっちゃおもろいで」 「だってなまえとツムやろ?色々想像するとめっちゃ笑えるやん」と、のたまう治の肩を引っ叩く。私が叩いた肩をさすりながら、治は「でもな、」と続けた。 「でもな、なまえ。俺は適当だろうが、面白がられてようが、それでええと思うねん。そうやって難しい顔しとるより、笑ろてる方がええやんか」 その治の言葉は、すんなり心に入った。そうか、そうだよな、って。 でも、私は素直じゃないから「当事者じゃないからそんな風に言えるんだよ」と素直じゃない返事を返す。 さすが幼馴染。そんな私をも見透かすように、治は「ほんま素直じゃあらへんな。ツムも苦労するで」と笑った。 |