不器用なふたりで
「師匠の話も無かったことにしてもらっていい」
俯いて黙ったままの私に、荒船哲次はそう言う。 沈黙は拒絶だと思ったんだろう。今までの私の行動からしたら、それはそうなる。
「でも、もし、」
荒船哲次は少しだけ言い淀んで、だけど、私の目を真っ直ぐ見て、続けた。
「もしも、許してくれるなら、俺にお前が強くなる手伝いをさせて欲しい」
私も、その気持ちに応えるために、荒船哲次の目を真っ直ぐ見て言う。
「許すとか、許さないとかじゃないです。私も、私の独りよがりな考えで荒船さんに酷いことしました」
本当は言いたいこと、謝らないといけないこと、他にもたくさんあるけど、とりあえず、今は。
「だから、荒船さんが良かったら、私の師匠になってください」
その言葉に、荒船哲次は少し表情を緩めて、ありがとうと言った。そして、
「じゃあ、改めてよろしく」
再び差し出された右手を、今度はしっかりと握る。
ちょっとしたスレ違いやカン違いで、その後の人生が大きく変わることがある。
そして、そのちょっとした間違いについて、後からあの時ああしていれば、だなんて思ったって無駄なのだ。
だって、もう人生は、その時選んだ道で進んでいるのだし、別の道を選んだからって自分の思うような人生になるとは限らないし。
だけど、道を選べるタイミングは1度ではない。
だから何度間違えても、また選べば良い。不器用なふたりが、再び並んで進める道を。
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