終焉を意識したの
とりあえずはこの場には鋼さんもいるし、なんて思っていたら、「俺、これから防衛任務だから。あとは2人で」なんて言ってサッサと立ち去ってしまった。本部のラウンジのテーブルに荒船哲次と2人…。え、鋼さん?初対面だったとしても気まずいんですが?
「みょうじ、」
2人なんだから私のことを呼んだって当たり前なのに、荒船哲次に名前を呼ばれてビックリする。
「久しぶりだな」
そう言った荒船哲次は、当たり前だけど大人になっていた。それはそうだ。小学生の頃から成長してない訳がない。 成長してないのは、私の中の荒船哲次に対する気持ちくらいだ。 荒船哲次があの件どころか私のこと覚えてなくて、初めましての人だと思ってくれてたら。それはそれで都合が良かったけれど。やっぱりと言うか、ばっちり覚えていてくれたらしい。
「お久しぶりです…、…荒船さん」
昔の呼び方で呼ぶわけにもいかず、思わず名字にさん付けって言う呼び方になる。知り合いだったとは思えないほど他人行儀になってしまったが、仕方ないと思って欲しい。 荒船哲次もこの呼び方に思うところがあったのか、少し驚いた表情をした後、苦笑いした。
「それもそうだよな…。みょうじ、初めに言っておきたいことがある」
そう言って荒船哲次は立ち上がると、被っていた帽子を脱ぎ、私に向かって頭を下げた。
「みょうじ、すまなかった」 「え、」
突然のことに、ラウンジにいる人たちのざわめきが少しこちらに向く。それでも荒船哲次は頭を下げたままだ。
「あ、荒船さん、やめてください。なんなんですか」 「もしかしたら、お前はもう覚えていないかも知れないけど、」
私も慌てて立ち上がり、顔を上げるように促す。けれど、荒船哲次はそのまま言葉を続けた。
「小学生の頃、お前のこと一方的に責めたことをずっと後悔していたんだ。本当に申し訳ないことをした」
そしてやっと顔を上げて、こちらを見る。
「あれから、ずっと謝りたいと思っていたんだ」
正直な話、拍子抜けした。でも、今更そんなことを言われても、過去の私がしたことや思ったことは、何も変わらない。変えられないのに。
「今更…そんな風に謝られても、困ります」 「悪い、俺が謝りたかっただけだ。許されたい訳じゃない。それはお前の決めることだ」
本当に、今更な話だ。もっと早く言ってくれれば。なんて高慢なことを考えても、ずっとその機会を与えようとしなかったのは、私なんだ。
本当はわかっていた。きっと謝るだろうって。荒船哲次は、私の知る限りそういう人だ。
別に荒船哲次が悪い訳でも何でもないのに。私が一方的に傷付いただけなのに。
だけど、あの時、荒船哲次のことを嫌だと思ってしまったのは事実で。そして、好きだった人を嫌いになる瞬間は、とても切なくて、悲しかった。 そんな風に荒船哲次のことを思ってしまった自分が嫌いになった。
だから、私は荒船哲次を避け続けた。
私は今までずっと、荒船哲次のことを許さない振りして、「荒船哲次のことを嫌いになってしまった私」を許していなかったのだ。
→ |