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好きな人に想いを告げて、それが叶わなかった時、私はショックよりも「やっぱりな」と言う気持ちの方が強かった。
それでも悲しいことは事実で、でも泣いたら何かにはわからないが負けな気がして。
降り出した雨に傘もささずに濡れていると、足元を半透明の影が私を覆い、雨と私を隔てた。

ふと顔を上げると、迅が私に傘をさしている。
自分の肩が濡れるのも厭わず、こちらに傘を差し出す迅を見て、なんで振られるのを察していたのかを思い出した。

さっきすれ違った時、迅が私を見て悲しそうな顔で笑ってたからだ。追い掛けてきてくれて、傘を差し出すのも、全て<見えて>いたからだろう。

楽しみにしていた映画のネタバレをされていたのを、映画を観た後に気付いたような気持ちだった。

迅の優しさに感けて、私はお礼も言わず、そのまま傘に当たる雨の音を聴いていた。



 × × ×



なまえが何も言わずにいるのは、きっと怒っているからだろうということは容易に想像できた。なまえがおれが傘を持ってきたのは優しさだとか同情だとか、そういう感情だと思っているのも。

でも、おれは自分のことしか考えていないだけなんだ。なまえの好意が少しでも自分に向くように、そうしているだけでしかない。

きっとなまえは気付かないだろう。

だって、おれが想いを告げて、なまえがうなづく未来は見えない。だから、おれはこの気持ちを伝える気は無い。
おれはほんの少し未来が見えると言うだけで、ほんの少しの勇気も出せないでいる。


身を寄せて2人で1つの傘を使う勇気すらも無いおれは、春の雨でずぶ濡れだ。


シュレディンガーの猫は死んだのか。箱を開けなくても結果がわかってしまうおれは、箱を閉じたまま、違う未来が見える日まで仕舞っておくつもりなのだ。


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