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「…それ、本気?」

一世一代の告白の後、しばらくの沈黙。やっとみょうじが言葉を吐き出した瞬間に、おれは自分の言ったセリフに後悔した。完全にタイミングを間違えた。あー、やっちまったな、これは。

「…本気だよ」
「どうしたいの」
「どうしたい、って…」

訝しげに質問を重ねるみょうじは俯いてて顔色が伺えないものの、声が不機嫌だ。

「い、今までだって、充分仲良くやってたじゃん」

やっと顔を上げてくれたが、その言葉と表情に、更に後悔を重ねた。別にそんな悲しそうな顔をして欲しかった訳じゃない。

「…おれは、おれのワガママだけど、それじゃ足りないって思ったんだよ」
「…なにそれ、もう、私、一人で米屋んち行くから!」
「はぁ?」
「ばいばい!」
「ちょ、ま、おい!みょうじ!」
「ばーか!裏切り者ー!」

捨て台詞を言って走り去るみょうじに、裏切り者ってなんだよ、とか、しかもこのタイミングで米屋かよ、とか売り言葉に買い言葉で色々言いそうになるけど、グッと堪える。

今の場合、悪いのはおれだ。

「はぁ〜、まじか…」

深い溜め息を吐いて、その場にしゃがみ込んだ。

大丈夫だと、思ったんだけどなぁ。まぁ、大丈夫だと思ったからみょうじに告ったわけじゃないけど。変わるきっかけが欲しかっただけなんだけど。

…なんて自分に色々言い訳してみても、最悪の結末を予感させるみょうじの行動に、後悔はあまり薄まらなかった。




いつまでもその場にいるわけにもいかず、かと言って家に帰るのも微妙で、とりあえず本部に向かった。誰かと個人戦でもして打っ飛ばせば気分も晴れるかなぁとか思ったけど、こんな時に限って誰も捕まらない。てか、こういうの付き合ってくれるのって大抵みょうじとか米屋だよなぁ、と思い出して、また落ち込む。

個人戦ブースの脇にある適当なテーブルに突っ伏していると誰かに声をかけられた。

「よぉ、弾バカ」

「ここにいると思ったぜ」とか言う聞き慣れた声に顔を上げると、ニヤニヤしながら米屋が近づいてくる。そして、その後ろに気まずそうにみょうじが付いてきていた。

「良いよ米屋。言いたいことなんて無いから」
「さっき言ってたことそのまま言えばいいんだって」

みょうじは米屋に促されて、渋々と話し出す。

「…私、出水のこと好きだよ。でも友達として。友達なら喧嘩しても仲直りすればいいけど、でも彼氏とか彼女とか別れちゃったら、そこで関係が終わりになるでしょ?だから、私は、出水とは友達のまま、ずっと一緒にいたかった。だから、なんか出水から告白されて、それが出水から終わりを突きつけられたみたいで悲しかった」
「なんだよそれ…」

おれの溜め息にみょうじがビクッとするが、この溜め息はおれ自身に対して。だってさぁ、みょうじの言うことによれば、おれの告白って完全に悪手だったってことだろ?


「…なぁみょうじ、」

なんて言えばいいのかわからず沈黙を保っていると、おれと一緒に黙ってみょうじの話を聞いていた米屋が突然口を開いた。

「オレと、ちゅーしたり出来る?」
「…は?」

米屋の質問に冷や汗が出た。どう反応するのかとめっちゃくちゃ気になってみょうじを見ると、「え?米屋と?無い無い!」と即答して首を横に振っているので少しホッとする。

断られたというのにニヤけている米屋は、質問を重ねた。

「じゃあ出水とは?」
「えっ…?いっ、出水…?」

本当さぁ、米屋も勘弁してくれよ。何てこときいてくれてんだ。
でも、もっと勘弁して欲しいのは、みょうじの反応だ。

なぁ、なんで考えるんだよ。なんでちょっと赤くなってんだよ。それってさぁ…。

米屋のドヤ顔がムカつくが、そういうことなんだろ?

みょうじは慌てて「あっ、いや出水も無い!多分無いから!」と言っているが、もう遅い。

「米屋…、おれ頑張るわ」
「おう、貸し1にしといてくれても良いぜ」
「頑張るって何を…」
「みょうじ…この期に及んで往生際が悪いぜ」
「そうだ、さっさと観念しろ」
「なんか出水、急に強気じゃない?」
「そりゃそんな反応されたらそうだろ」
「いやだから出水だって友達…」

みょうじが鈍くてバカなのは今更の話。

「おれさ、みょうじのことが1番好きなんだよ。で、みょうじにもおれのこと1番好きでいて欲しい。でも友達じゃ1番にはなれねぇだろ。どんなに仲良くても、他に恋人が出来たりしたらさ。だから告ったんだけど」
「…うん」
「別にお前と友達辞めたいからとかじゃないから」
「…うん、」

おれの言葉で、みょうじの不安がどれだけ解決されたかわからないけど。今のおれが伝えられることは全部伝えた。みょうじの顔もさっきよりは曇っていない。

「それで。お前もおれが好きなんだろ?」
「えっ!あー、だからー、好きだけどー…」

なかなか認めようとしないみょうじだけど、それも含めておれの好きなみょうじなら。

「今は良いよ、それで。そのうち『出水のことが好きすぎてしょうがな〜い』って言わせてやるな」
「だ、誰が言うか!」
「うは、それおもしれー」

いつものノリで軽口を叩けば、「迅さんに予知してもらおうぜ」とか米屋も悪ノリしてきた。
「バカじゃん」と言いながらも、みょうじもやっと楽しそうに笑った。


…うん、今はまだ、友達の延長戦でも。

夏は始まったばかりだ。


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