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名 優 の み ぞ 知 る 結 末 を



「…ふん」
「に、二宮…」

部屋の奥から出てきた二宮は腕を組んだまま、こちらを見てくる。その視線から逃げるように、振り返って太刀川と諏訪を睨む。

「てかなんで二宮がここに?!」
「オレが呼び出しておいた」
「ちょ、太刀川!誰もいないって言ったじゃん!」
「誰もいないなんて言ってない。みんないないって言った」
「いや、そうかも知れないけど、」
「じゃあ後はお二人さんごゆっくり〜」

二宮、貸しだからな〜と、部屋から出て行く諏訪と太刀川。いや、ちょっと、この状況おかしくない?なんで太刀川隊室で二宮と2人っきりにならなきゃいけないの?って、まぁ私が二宮から逃げてたからなんだけど!わかってるけど!

諏訪と太刀川の出て行ったドアを見ていると、おい、と後ろから声をかけられる。あ〜、これ、振り向かないと駄目だよね、流石にね。…はぁ…。

恐る恐る振り返ると、二宮が最初に見たときのまま腕を組んでこちらを見ている。気まずくて、一瞬だけ合った視線を逸らして、足元を見る。怒っているのか、呆れているのか。
え、どうしよう、なんて言えば。そう思っていると、二宮がまた溜息をつきながら、話しかけてきた。

「どうして逃げた」
「ど、どうしてって、申し訳ないから…」
「何に対して?」

太刀川隊室の散らかったソファに遠慮なく座る二宮。隣に座れと目で促されたので、一人分空けて座る。少し不服そうな顔をしたが、とりあえず私が腰を下ろして話す体勢を取ったことには満足したようだ。

「何って二宮に。お互い酔った勢いで、…二宮にとっては別に好きでもない人と、その、こんなことになったなんて、嬉しくないでしょう?」

何にもわかってないな、お前。そう言われて、また逸らしていた視線を二宮に戻す。
わかってないって、何を。そう聞こうとしたが、その言葉は飲み込まれたまま、吐き出されることはなかった。二宮がとんでもないことを言い出したから。

「俺は酔ってない」
「何言ってんの。…珍しくガブガブ飲んでたじゃん。私は知らないオシャレっぽいカクテル」
「シャーリーテンプルだろ」
「シャーリーテンプル…?」
「はぁ…学がないと大変だな」
「…どういうこと?」
「シャーリーテンプルはノンアルコールカクテルだ」
「…え?!」

慌てる私に、流石にわかっただろ?と二宮。

「え、じゃあ二宮、素面だったってこと?!」
「だから、酔ってないって言っただろう」
「え、え、だって、」
「お前は俺が酒に溺れるような真似をすると思ってるのか」
「お、思わない、けど…え?待って、全然わかんない」
「お前は俺が好きでもない女と寝ると思っているのか」
「いや、その、改めて考えると…全く思わないけど、さ、…でも、その理論でいくと、さ」

ねぇ、それってつまり、そう言うことなの?

「本当に、鈍いな」

呆れたように笑う二宮は、決定的なことは言ってくれない。

「鈍いってわかってんなら、はっきり言ってくれないとわかんないよ」
「お前だって、はっきりしないだろ」
「え、そんなこと、」

あ、あるかも。確かに私もちゃんと二宮に言ったことは無かった。
二宮の方をちゃんと向くと、二宮も組んだ足を戻してこちらを向く。

「ねぇ、二宮。今回はこんな風に成り行きみたいになっちゃったけど、私、ずっと二宮のこと、好きだったよ」
「だった?」
「ああ、もう、…好き、です」

そう言った途端、腕を引かれ、二宮に抱きしめられる。

「知ってる」
「え、知ってる、じゃなくて」
「俺も…」

二宮の顔は見えなかったけど、抱きしめられる力が少しだけ強くなって、ドキドキが加速する。

「俺も好きだ」

「うん」とうなづいて、私も二宮の背中に腕を回した。

少し強引で駆け足な始まりだけど、好きな人とこうして抱き合えることになって、本当に良かったなぁ。

二宮の胸にそっと耳を当てると、二宮も結構ドキドキしていて、嬉しくなった。


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