「一年お疲れ様でした」


終業式が終わり、明日から冬休みになるという事なのか周りは嬉々とした感じで、自分の家路へと帰って行く。
冬休みは長期休暇の中では少ない方だが、夏休みみたいな大量の宿題なんぞ出てこない為に別の意味で嬉しい事だ。それ故に、吹雪にとっては楽しみの一つである幼馴染みの紺子と、年末を送る事であった。紺子が、吹雪君の家で年末を過ごしたいという願望に、吹雪は断る事なんぞ躊躇いもなく、何度も頷いた。その姿に、紺子は嬉しく思い飛び跳ねたりするもんなので、彼女の被っている笠越しを撫でた。
そんなこんなで、吹雪の家で年末を過ごすのだが、テレビを見たり、紺子が作った年越し蕎麦を食べたりと、普通に年末を過ごしていた。紺子にとっては、吹雪と一緒にいる事で既に満喫はしている。だけど、吹雪にとっては面白くない事だった。折角の年末に、紺子が誘ってくれたの事だから、自分にべったりとくっついて過ごすのかと吹雪の脳内は相変わらず満開の花畑気分だ。それがまるで分かっていなかったのだろう。炬燵に温もりながら、年末スペシャルのテレビ番組を楽しそうに見ている。少しはこっちを向いてくれないかと、吹雪は紺子から重い視線を送るも、なかなかこっちなど見てくれなかった。その事にむっとなったのか、吹雪は無意識にも紺子の着ている暖かそうなちゃんちゃんこの裾を軽く引っ張り出した。

「吹雪君、どうしたの?」
「ねぇ、紺子は楽しいの?」
「当たり前だべ、吹雪君と年末を送れるなんて楽しみだったから!」

目をキラキラさせながら、やっとの事で振り向いた紺子に吹雪は満足した。このまま、テレビだけではなく、自分だけ見てほしいと吹雪はそのままぐいっと紺子の腕を引き寄せる。いきなりの事に、目を瞬かしながら吹雪を伺う紺子の姿は背が小さい為に、上目遣いになっている。それは少しばかり反則だと思うが、此方を無意識にも見つめてくる彼女に、迷わず小さい身体を抱き締めた。膝の上に紺子を乗せ、まるで抱き枕かのような感じに少し強めに抱き締める。紺子から、えとかあとか声が聞こえるが、今の吹雪には全然耳には入っていないだろう。
紺子の頬を擦り寄せるのも束の間、テレビの音からやけに騒がしいような声が聞こえる。先程まで紺子にしがみついてた吹雪も、呆れながらもそれを受け入れる紺子もテレビ画面の方へ向くと、そこには残り五分で年が明ける時間帯へとなっていた。そろそろ今年も終わりなのかと、紺子は吐息混じりに吹雪の方を見つめると、吹雪はにこっと何時もの爽やかな笑顔を見せる。

「もう直ぐだね」
「吹雪君は今年、サッカー部の部長として頑張ったべ」
「紺子も、段々ドリブルが上手くなっているよ?」
「え、本当!?」
「うん、珠香と烈斗もそう言ってたからね」
「わー、頑張ったかいがあったべ!」
「そのぐらい頑張ったんだ」
「吹雪君の隣で走るように、頑張ったべ!」
「…え?」

吹雪は目を瞬かしながら紺子の方を見つめると、それを言うのが恥ずかしかったのだろう。紺子は頬を赤くさせ、照れくさそうに被っている笠で顔を隠す。勿体無い。折角、頬を赤くさせる彼女の姿を独り占め出来ると言うのに。くすっと薄く笑った吹雪は、紺子の笠を外す。

「紺子、サッカー以外でも僕達はずっと隣だよ?」
「恥ずかしいけど、嬉しいべ」
「だから、テレビばかり向かないで僕だけ見てほしいよ」
「…あ、ごめんね?夢中になって」

この番組面白くて、とそう謝罪する紺子に許さないなんて一つも思わない。確かに今やっている番組は、年末を重視した視聴率も高い番組だから、それはテレビの方に視線は向いてしまうだろう。素直にそう告げる彼女に、何だか自分までもが謝りたくなるような気分だ。参ったなと思ったが、今は彼女が此方を向いているからまあ良いだろう。
今年も残り一分を切った。番組の方も盛り上がり、吹雪は紺子を後ろで抱き締めながら二人してテレビを見つめている。段々と時間が過ぎていく中、吹雪は口元を緩め

「紺子、こっち向いて?」
「え、でも…」
「早く早く」

珍しく急かす吹雪に、紺子は見たい番組を躊躇いがちに吹雪の方に顔を向ける。すると、口元を緩めた吹雪の顔が段々と近付いていき、紺子は目をまん丸くするも時既に遅し、吹雪の唇は紺子の小さなぷるっとした唇に口付けた。それと同時に鳴りだした鐘の音、どうやら今年も終わり新しい年になったみたいだ。今年最後とそして新年度最初の口付けを、吹雪はまとめて同時にしたらしい。

−吹雪が紺子に口付けする前に、彼は緩めた唇でこう言った。


∴ 「一年お疲れ様でした」


お題 しばし待て、