「暖房がこわれたの」
「だからどうした」
「一緒に寝ましょ」

 棗君はそれはもう、嫌そうな顔をしていた。

「ふざけるんじゃねえ、帰れ」
「それがふざけてないのよ、とにかく寒くて」

 決してうそはついていないのだ。 アリス学園の寮は冷暖房完備なのだが(……否、階級によっては分からないが。)、その暖房がどうにもおかしい。昨日までは怪しげな音をたてながらも動いていたのだが、今日になってうんともすんともいわなくなってしまったのだ。

「明日蛍ちゃんにお願いするからさ、幹部生のよしみで」
「違う奴の所に行け」
「ケチ!いいじゃない!」

 青筋を浮かべながら怒る棗君をよそに、私は勝手にその部屋へと足を踏み入れる。

「おい、燃やすぞ」
「そんな事して罰則受けるのは棗君なんだからね」

 盛大な舌打ちをしたものの、どうやら諦めたようだ。

「蜜柑ちゃんにバレないようにしないと」
「やっぱり出て行け」
「冗談冗談」

 好きなひとが自分以外と床を共にした、なんて聞いたら中々にショッキングだろう。べつに私には他人の恋愛事情をひっかきまわすような趣味は無いので、そんな事はしないが。

「棗君はセルフ暖房出来るよね、アリスで」
「しねえよ」
「便利そうなのに」

 けたけたと笑いつつも、布団に入る。スペシャルの部屋に置かれているベッドはそれはそれは豪華な物なので、子供ふたりがおさまったところで狭さなんて微塵も感じさせなかった。

「それじゃあお休み」
「寝てる間に燃やしといてやる」
「少年の部屋から謎の焼死体発見とか、怖すぎ」


なんでもないやまもおちもいみもない話
*13.12.22


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