「アリスとして生きた事を、悲しいとは思いません」
聳え立つ大きな正門。二十になるまで決して越える事は許されないとされたその境界線を、私は越えようとしている。
「寂しくなるな」 「本当にそう思ってくれてるのなら、嬉しい限りです」
私の中にあったアリスは、死を迎えた。これからは、星の数ほどいる一般人の一人になるのだ。物心付いたときからこの場所で過ごしてきた為、とてもふしぎな気持ちだった。
「もう二度と、あなたと会わないのだと思うと」 すこし、さびしいです。そう告げた瞬間、うつくしい金色の瞳がわずかに見開かれた。
「私、行平校長が好きだったんです」 「……ああ」 「初恋は叶わない、って本当なんですね」
口にした途端、吹っ切ったはずの寂しさがこみ上げてくるような気がして、俯く。本当に、好きだったのだ。べつに彼の深い所まで理解していたわけじゃない、むしろ上辺だけしか知らなかったのだと思う。けれど、確かに私は、恋をしていた。
「君はいつも明るくて、騒がしかったな」 「ああ、ひどいですね」 「……私も、そんな君に癒されていたよ」
大きな手が私の頭をそっと撫でる。 「……本当は、もっと此処に居たかった」 「世界というのは、とても残酷な物だな」
涙が頬を伝い落ち、地面にしみを作った。 「君が何処に居ようと、応援している」 「は、い……」 ずっとあこがれていた人に、優しく抱きしめられている。まるで夢の様な出来事、しかし今になってはただ切ない気持ちばかりがあふれ出した。ああ、ほんとうに終わってしまう。いとしいすべてに、別れを告げなければならない。
「アリスであった事、学園での生活、私の誇りです」 「そういってくれる生徒が居るのは、教師として幸せな事だ」 「校長は、きっと何時までも私の憧れの人です」
大きく息を吸って、顔を上げる。忘れないように、しっかりと心に焼き付けよう。十年以上の時共にした学園、家族同然の友人達、恋心。いつか大切な人が出来たときに、胸を張って語れるように。
「本当に、ありがとうございました」
いっそ虹となれ 行平校長関連を書こうとするといつも以上に悲恋傾向に行ってしまいます あ、でも長編はちゃんと幸せになる予定です。お題はカカリアさんより。 *13.12.16
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