今日はひどいあめだ。激しく降り注ぐその音は、たのしいきもちをどこかへ連れ去ってしまうようだ。
「ねえ流架君、あめのひは少し気分が沈まない?」 「……べつに」 「つれないの」
普段の喧騒の影はなく、ただ雨音が鳴り響くだけの教室に居るのはわたしと彼の二人きりだ。珍しい、と思う。彼はどこか、私を避けている節があったから。 「わたしと二人っきりなんて、嫌でしょう?」 「そんな事無いけど」
そういいつつも、唇をかたくむすんでそっぽを向いてしまう。兎が心なしか心配そうだ。 「そう、ならいいけどね」 「お前こそ、」 「わたしはべつに、流架君の事、きらいじゃないもの」
そう、べつに、彼のことは嫌いじゃないのだ。心の中で繰り返しつつ窓の外に目を遣る。 「わたしはただ、棗君がすきなだけ」 「……」
佐倉さんと棗君をみていると、どうにもやるせない気持ちになった。邪魔をする気なんて、ないのだ。だけれど、自覚してしまったこいごころは中々消し去る事が出来ない。わたしは、佐倉さんがすきじゃない。 「佐倉さんが好きな流架君からしたら、不愉快なことを考えているから」
女はどんなに幼くたって、結局醜いものなのだ。
「その気持ちは、わからない」 「そうでしょうねえ」
流架君と棗君は、親友だから。どんなににくき恋敵であろうと、きっと私のような感情を持ったりはしないのだろう。少しだけ、うらやましかった。
「だけど、俺も嫉妬は、してる」
ずっと俯いていた流架君がこちらを見る。こぼれおちそうなくらいに大きな空色の瞳は、うるんでいた。 「佐倉と棗が幸せになってくれたら、それが一番なんだ」 「それは、とっても素敵な考えだと思う」 「でも、なんで俺じゃ駄目だったんだろう、って思う事はあるよ」
ふるえた声でぽつりぽつりと吐き出される言葉は、あまりにも切なかった。
「……そうなの」 「それで、お前といたら、そういうのがこぼれ出そうになる」 「……うん」
なんと続ければいいのか、なにをいうべきなのか、迷って沈黙がつづく。 ただひとつ、いえるのなら、
「わたしたち、本当はおなじなのね」
こどものかけら あめふり・嫉妬・鍵盤で書こうとしたものの鍵盤が入りませんでした タイトルはカカリアさんより*13.12.14
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