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ごおごおと、すごい音を立てて、地下鉄は暗い線路の上を走り抜けていく。
今年も、繁忙期がやって来てしまった。
連日の激務で残業、早出、残業、早出、1日だけの休みを挟んでまた残業。
そんな日々を過ごしているもんだから、電車バスという移動時間が大切な仮眠時間だった。
今日もイヤホンをさして音楽を掛けながら、そういえば日本の名を冠する旅客鉄道ってすごく静かな乗り物だったんだな、なんてことを考える。
睡魔はすぐにやってきた。
うつら、うつら、と首が揺れる。
だが、そんなことは今更気にならなかった。
だってこんな時間、ろくな人数乗っていないのだ。
時刻は21:30を過ぎたところ。
遅すぎる訳ではないが、少なくとも、私の乗る路線の、この向きの電車は私がいつも残業をして帰る時間になると酷くがらんとしている。遅くまで働くような人は、地下鉄沿線には住んでいないらしい。どんな土地柄。
まあ、そんなことはどうでもいい。
す、と電車の減速。
意識を外に向ける。
駅の名前のアナウンスを聞いて、まだ降りる駅でないことを確認した。
一層寝る体勢に入る。
寒い外気に完全に冷やされていた足先が、シートしたのヒーターによって温まり始めていた。
眠りに落ちるのは、もうすぐだ、という確信があった。