* 27 *
さてその日。
最終的にとんでもない轟音と紫の閃光により、私、およびアヤメちゃんの知る通りの結末を迎えた、姉妹校交流会、初日。
結局最後の最後に到着した真希さん伏黒くんコンビが硝子さんの治療が済むまで医務室に入り浸っていた私は(ちなみにアヤメちゃんは加茂さんを部屋に送り届けるというタイミングで離脱し京都校の方へと戻っていった)、そののち二人を部屋に送り届け、狗巻さんのお部屋にお見舞いに行き、虎杖くんとのばらちゃんの様子もうかがいに行って、ようやく満足をして部屋に戻った。
パンダさんにはお見舞い巡りの道中で遭遇して、草臥れたが無事だという事を聞いたのであえて部屋まではいかなかった。
そして、その日の晩はみんな特に何をするでもなく回復に費やしたことだろう。
私は丸っきり無傷だが、気をもんだこととか、強い呪力に当てられ続けたことなどからそれなりに体力を消耗していたようで、すぐにおふとぅんに入って爆睡をこいた。
そして翌日。早く寝た分、9時頃に目が覚めた私は、とりあえず目的もなく外に出る準備でもして、学長か五条先生にでも会いにいこうかと思っていれば、がんがんと扉を壊さんばかりの勢いでのばらちゃんに呼び出されて、そのままの流れでピザを持ち伏黒くんの部屋へと連れていかれることになりました。
まぁ、よく知るシーンですね。呼んでいただけて嬉しいです。一応一年生の仲間として認識してもらえてるわけですね。なんか申し訳なさもあるが、素直に言うと嬉しい。へへ。
「伏黒ー!生きてっか!」
「おはよおししょー」
めちゃくちゃ活舌よくハキハキしたのばらちゃんの元気な声に続けることになったので、なんとなく活舌のゆるい気の抜けたことを云いながら、私と彼女はずかずかと伏黒ルームに入り込んだ。
最早鍵閉めてない奴に人権はないみたいなことになっとるな。のばらちゃん強い。
「んだよ騒がしいな」
起きてはいるがベッドに座り込んでぼんやりとしていたらしい彼は、顔を上げて、取り繕うようにそういった。
「一番の重症患者かと思って心配してきてやってんのになんだその態度」
「いやお前な?????」
「ピザ買ってきたぞピザ」
「は?」
「伏黒くんジュースのむ?お水?マグカップ借りていい?」
「いいけど…いや、は?」
「水?ファンタ??」
「み、水」
「おっけえ」
「おら」
「おいそこに置くのか!?」
「細けえことはいいんだよ」
などと完全にのばらちゃんの勢いに置いてきぼりにされている伏黒くんを愉快に思いながら、コップを四つ、手に取って、一つはお水をつぐ。
のばらちゃんは?ファンタ!なんて会話をしていれば、開けっ放しの扉から虎杖くんもやってきた。
「おーお前ら元気そうだな」
「そら私らは無傷も同然だったからね」
虎杖も食べるでしょ、適当に座んなさいよ。
なんていってのばらちゃんはてきぱきと食べ始める準備を進める。
ちなみにピザだけじゃなくてサイドメニューもあるよ。ジュースは適当に道中で(?)買ってきました。
「虎杖くんなに飲むー」
「コーラ!」
「はいよー」
のばらちゃんが奥っかわに座って、虎杖くんがその反対。
さて、椅子、それで品切れなので、私どうしよっかな。おまえの席ねーから状態だな!
「くるる、半分座る?」
「のばらちゃん……!」
「ほれ」
「ありがとう〜〜」
飲み物を用意し終わった所でのばらちゃんがそう声を掛けてくれたので、私はお言葉に甘えることにして部屋の奥っかわに移動する。
背もたれのない椅子なので、まぁ多少狭くはなるが不可能ではないだろう。
「そんな無茶しなくても、こっち座ればいいだろ」
見かねた(?)伏黒くんがそういってベッドの脇を軽くたたく。
いや人がベッドに座るとか上がるとか嫌じゃない……?私は断りなくされるの嫌なんだけどな…?
「ええ、それは流石に恐れ多い」
「なんでだよ」
「まぁ家主がいいって言ってんだしいいんじゃないの」
若干の含みのある表情でのばらちゃんが言った。そして、早々に、椅子に座りなおす。椅子を半分こにしない、通常状態の座り方だ。
つまり僕の行き場がなくなったという事でありまして。
「いやのばらちゃん声震えとるんよ」
「な、なんのことよ」
「いやわろとるやん!!!!!」
この人めちゃくちゃ面白がってる!多分そんなおもしろ可愛い他意はないと思うよ…!?
「?」
ほらあ!当の本人きょとんとしとるが!?
「何よ言いがかりはやめてよね!先食べるわよ」
いただきまーす、と言ってのばらちゃんはしらこく箱を開けて、いの一番にピザを掴み上げた。
「お、うまそー!俺もいただきまーす!」
お行儀のいい子たちである。
ええ、と未だに躊躇いつつ、家主を伺ってみる。はよせえ、と言わんばかりの顔であった。
あっ、チッス。さーせん。
「ええ…じゃあお言葉に甘えて…」
まぁ持主がいいというならいいか…。私が潔癖すぎるだけなのか……?
いやまぁ起きたてだし別に地べたに座ってきたわけでもないんですけども。
なんとなく申し訳ない気持ちになりながらも私は言われた通り座らせてもらうことにした。まぁ……まぁ家主がいいっていっとるからね…!大丈夫…!(自己暗示)
「いただきます」
見届けた家主少年もお行儀よくそういって、ようやくピザに手を付けた。私も続いていただきますをした。
っつかよく食べられますねこんな重たいもの。
「にしても、なんか大変だったみたいね、そっちは」
「他人事だな」
「他人事よ。こっちは影も形も見てないんだもの」
「そりゃそうか」
「結局なんだったの?」
「前に五条先生が特級呪霊に襲われたって話しがあったろ。あいつだった」
「へえ。でも結局なんだったのかしら」
「さぁな」
よく分かんねぇな。なんていってのばらちゃんはもぐもぐしている。
伏黒くんもそこから話しを続ける気はないようだった。
「釘崎はあの後どうしてたんだ?」
次に口を開いたのは虎杖くんである。
「あぁ。京都の魔女モドキ見つけたからボコってた」
「勝った?」
「圧勝よ」
「マジか。すげー。」
「ふふん」
「西宮さんって確か2級術師ちゃうかった?のばらちゃん強ない???」
「マジ?2級?ってことは私も2級呪霊なんて楽勝かもしんないわね」
「可能性はあるなあ」
っつうかお姉さんこの後特級ぶち殺すんやからそれどころやないんやで。
…とは、まぁ、言ってもしょうがないことなので黙っておくが。
「行菱は?」
「私は作戦通り呪霊探してボッチで練り歩いとったよ。後半、知らぬ間に狗巻さんが単独なっとん気付いて合流したけど」
「アンタもあの特級呪霊見たのよね」
「そ〜。全く歯も立ちませんで私はひたすら逃げとったけどな」
「まぁそらそうでしょ。真希さんですらボコられてんのよ」
「そらそうだ。手も足も出る訳ないんよ」
「あっ、っていうかアンタいつの間にあのゴリラと仲良くなったのよ」
「いや、仲良くなったっつーか……」
気まずそうに、虎杖くんは鼻をかく。
「記憶はあんだけど、あん時は俺が俺じゃなかったっていうか……」
「何アンタ酔ってたの?」
「釘崎は俺があの状況で酒を飲みかねないと思ってるの?ショックなんだけど」
「なんとかハイってやつやろうなあ」
「多分そう。マジで。でもまぁ、伏黒の怪我が大したことなくてよかったな。ピザも食えてるし」
「それはほんとにそう」
「あの時呪力カラカラだったのが逆によかったみたいだ。根を取り除いた時点で家入さんの治せる範囲だった」
「へ〜そういうこともあんのか」
「アンタもソイツと闘ったんでしょ?」
くるる、ジンジャーエール。
びっと勢いよくコップを出してのばらちゃんが言うので、私は言われた通りペットボトルからジンジャーエールをついだ。
「……虎杖」
「んあ?」
「お前、強くなったんだな」
当人と目を合わせないままに、少年は言った。なるほど、起き抜けの物思いはやっぱりこれだったんだろうな。
「あの時、俺たちそれぞれの真実が正しいと言ったな。
その通りだと思う。逆に言えば、俺たちは二人共、間違ってる」
「答えがない問題もあんでしょ。考えすぎ。ハゲるわよ」
少年は複雑に物事を考えるのに躊躇がないタイプだよな、と思う。
私みたいなタイプはその真逆。なんでもシンプルにシンプルに端折って理解しようとする。
そういう類型に関して、名前があったような気もするが、もう思い出せないな。
「そうだ、答えなんかない。
あとは自分が納得できるかどうかだ」
それは、とても大切な考えかただよな、とつくづく思う。特に、こんな世界においては。
「我を通さずに納得なんてできねぇだろ。
弱い呪術師は我を通せない」
”俺も強くなる。すぐ追い越すぞ”
負けたくない、なんて思ったことがなかっただろうこの少年の、そのセリフには、とてもとても、重みと、そして大きな意味があるに違いなかった。
それは確かな”変化”であり、そして、紛れもない”成長”に違いない。
「ハハッ、相変わらずだな」
そして、追われる側もまた、競る相手というものを確かに必要としている。
切磋琢磨とはよく言った言葉であるが、結局はそういう「あと一歩」の踏ん張りのきっかけとなり、そして「己の成長」の明確な評価基準となる存在と言うのはあるに越したことがないのだろう。
「…私ら抜きで話進めんじゃねーよ。ねえ、くるる」
「あはは。そうねえ」
「それでこそブラザーの友達だな」
うんうん、と、頷く巨大な影が一つ。
そう、噂をすればなんとやら。
テクニカルゴリラこと東堂葵先輩である。
「あっ、わぁ、コンニチワ」
呆けた三人の代わりに、そう、挨拶をしておく。
直後、虎杖くんはとんでもないスピードで部屋をでていった。窓から。
「こんにちわ!!そしてどこへ行くブラザー!」
「感謝はしてる!でも勘弁してくれ!!!あの時は正気じゃなかった!!!」
「何を言っている!!ブラザーは中学の時からあんな感じだ!!」
「俺はお前と同中じゃねえ!!!!!!!」
やはりフィジカルゴリラ。身体能力の高い人は声もでかいということで。
窓からのぞけばもうはるか彼方にいる彼等だったが、その断末魔だけは確かに明確にこちらにも届いている。
「なんだったのよ…」
呆れかえるように、のばらちゃんがそういった。
「嵐のような人やったなあ」
「ほんとだな」
ちなみにこの部屋にもう椅子はないので、東堂さん、あの体制を空気椅子でやっていたことになる。
流石だぜフィジカルゴリラ。多分あの筋肉量ならあれくらい全然平気なんだろうな。すげえぜ。
なんてどうでもいいことを思いながら、そして他愛のないことを話し続けながら、去っていった虎杖くんに思いをはせつつ、残りのピザとサイドメニューを三人で食らうのだった。