* 23 *



 さぁじゃあ、まずは故人様と感動のご対面、といこうじゃないか。


 さて、月日が流れるのは早いもので。
 私の大好きな夏が終わり、気付けば、ほんの少し夕暮れが早くなって、空に浮かぶ雲も様変わりし始めた、九月の日のこと。

 ついにこの日がやってきました。
 そう。

 京都校との交流会の日。


 それはつまり、死んだことになっていた虎杖くんと公に再開できるイベントでもあるという事で。
 私は一人だけ、そういう意味も込めて、とてもとても、この日を楽しみにしていた。

 やっぱり、分かっていても彼が死んだと聞いた日は泣きそうになったし、彼の居ない日々は、とても寒々しいような気がしていたから。
 あの子がどれだけ、人間性的にも、たったあの一瞬で、私たちにとってかけがえのない存在になっていたか、ほんと、嫌になるくらい思い知らされる日々だった。

 とはいえ、やっぱり改めて考えると、出会ってたった二週間だったんだな。彼が、ここにきて。彼と初めて会って。そう思うと何とも不思議と言うか。にわかには信じがたいような気もするが。

 ………あ、待てよ?これって”そういう”事なのか?
(虎杖くん他人の記憶に入り込んでくる問題)


「なんでみんな手ぶらなの!?!?!?」

 境内を模した、高専の中の一角に、のばらちゃんの声が響きわたる。
 そうですね。集合場所、集合時間です。
 のばらちゃんは遠征ガチセットを携え、一番最後に到着しました。

「オマエこそなんだその荷物は」
「何って……これから京都でしょ?」
「???」
「京都”で”姉妹校交流会……」
「京都”の”姉妹校”と”交流会だ。東京で」

 パンダさんが冷静に説明をしていた。

「ちょっと!くるる!知ってたんなら早くいいなさいよ!!」
「ええ!理不尽!!私このところほとんど狗巻さんとしか喋ってへんの知ってるやろ!?!」
「確かにしばらく姿見ないなとは思ったけど!!!そんなことになってたの??!」
「そう……まだまだあかんってゆーて…鬼の…地獄の特訓をし……くたびれ切って終わったら部屋戻って秒で寝て…次の日も狗巻コーチに起こされて訓練が始まるという地獄の日々……」

 マジで、この一か月くらいそんな暮らしだった。ほとんど記憶がないといっても過言ではないのよ。
 怒涛の鬼詰め。
 マジで社畜時代の繁忙期を思い出すからやめてほしい。先生も狗巻さんもなんでそんな感じなん。

 いくら社畜やゆーても死んでまうんやで????

「めんたいこ」

 ぶい、と悪びれないどころかおちゃめに狗巻さんはダブルピースでにこにこしている。
 本当に一か月、任務すら行くことなく狗巻さんとばかりいたおかげで、ついに、おにぎり語も少しだけだがわかるようになってきた気がする。

「わしが育てた?」
「しゃけ」

 ぐっとさむずあっぷ。どうやらあっていたらしい。
 私も元気に親指を立てて返事をしておいた。
 そして確かに育てられた。
 いやもうほんと、世話になりっぱなしであった。

「くそ……なんで東京なんだよ…」
「去年勝った方の学校でやんだよ」
「勝ってんじゃねーーーよ!!」
「俺ら去年出てねーよ。
 去年は人数合わせで憂太が参加したんだ」
「”里香”の解呪前だったからな。圧勝だったらしーぞ。京都でやったから見てねーけど」

 乙骨パイセン……純愛の代名詞……。
 確か原作通りだとコッチ戻ってくるタイミングめちゃくちゃシビアでなんかめっちゃつらい展開だった気がするんだが、だとしても私もいつかには乙骨先輩に会えるのか……なんかめちゃくちゃ感慨深いな………。

「許さんぞ乙骨憂太ーーーーー!!!会った事ねーけどよお!」

 やべ、なんかそう考えるとちょっと緊張するな。とうとすぎるもんな存在が。今世紀最大のガチ推しカプかもしれんからな……。えも。

「?」

 ふと、視線に気が付いて、そちらを向く。
 伏黒くんだった。

「ん?なあに?」

 しっかり目があったので、そのまま首を傾げる。
 別に、と何とかサマみたいなことを言って、彼は早々に目をそらしてしまった。
 別にってなんだ……。良いのか…。良いならいいんだが。

「おい、来たぜ」

 ふっと、真希さんがある方向へ体を向ける。
 境内を下る、階段の方だ。

 確かに、直後にふっと、数人分の呪力が現れた。
 おそらく、高専の結界の出入り口が、今日はこの下なんだろう。

「あら、お出迎え?気色悪い」
「乙骨いねえじゃん」

 ざり、と砂利を踏む音。
 そうですね。京都校の皆さまのご登場ですね。

「!」

 ぱっとある人物と目があう。
 私は、みたことのある人物。

 ただ、本来ならば”そこにいるはずのない”人物。

 そう、彼女は”私と同じ”―――――――


「うるせえ早く菓子折り出せコラ。八つ橋くずきりそばぼうろ」
「しゃけ」
「腹減ってんのか?」

 私も八つ橋がいいなあ。生の方。生いいよ。なんでも生がいいよ。肉とか魚とか。クリームとかビールとか。なんでも生ってついたら大体あたりだから。

「こわ…」

 後ろで西宮さんがたじろいでいる。かわいいね!ちいさいね!!

「乙骨がいないのはいいとしテ、一年3人はハンデが過ぎないカ?」
「ロボだ!!ロボがいる!!!」

 煽るメカ丸さんに、のばらちゃんが即座に反応した。
 少年より先にロボではしゃぐとはやるなJK。

「呪術師に歳は関係ないよ。特に伏黒くん。彼は禪院家の血筋だが、宗家より余程出来がいい」
「チッ」
「何か?」
「別に」

 いや、これに関しては真依さんが大人なんよ。殴りかかられても可笑しくない喧嘩の売り方しとるんよ。
 マジで京都の人ら血の気が多すぎ。

 そうこうしていると、遅れて庵先生がやってきた。
 いや、自己紹介しあってないのにぽろっと名前呼んじゃうとかありそうだな。気を付けないと。

 まあ先輩たちから多少話は聞いてた、で別に問題ないとおもうんだけれども。

「内輪で喧嘩しない。全くこの子らは」

 このセリフめっちゃ好き〜〜〜〜〜庵先生かわいい〜〜〜これはね、アニメキャラとかそういうんじゃなくて割と普通に人間として好き。上司か先輩にいてほしかった〜〜〜〜すき。

「で、あの馬鹿は?」
「馬鹿は遅刻だ」
「バカが時間通りに来るわけねーだろ」
「誰もバカが五条先生のこととは言ってませんよ」
「まぁでも今きてないのって先生くらいなんですけどね」

 などと言っておれば、どえらいデカい声を出して、そしてどえらい騒音を立てて噂の影がやってきた。

「おまたーーーー!!!!」
「五条悟!」

 ち、とシンプルに舌打ち。
 登場だけで舌打ちもらえるって中々の逸材すぎる。流石最強、五条悟。

「やぁやぁ皆さんお揃いで。私出張で海外に行っていましてね」

 これ、そういやマジで海外行ってたんかな。乙骨先輩のおる国いっとったんかな。ミゲルの国?

「急に語り始めたぞ」

 先生の騒がしさに隠れて、私は気配を消して、”彼女”に歩み寄る。
 相手も考えていたことは同じようで。
 みんなの視界に入らないだろう、後ろっかわにそれとなく移動して、久しぶりだね、と声を掛けた。

「ほんとに!結局あれ以来なんだかんだで会えるタイミングなかったしね」
「いやもう、訓練と称した社畜生活しててそんな余裕なくて……」
「それはお疲れだねえ」

 ぶったような声を出すその小柄な少女。
 名は、有栖川アヤメ。

 原作には、影も形もないその少女は、そう、私と同じ、元々はこの世界を「読者」として甘受していた側の人間。
 端的に言えば、トリッパー仲間、と言うわけだ。

 彼女とは、この間、真依さんと東堂さんがきていた時に少し接触をした。
 そこで同じ境遇だとわかり意気投合したのだ。しかも彼女、もとよりがっつりの夢女らしくて、めちゃくちゃそういう意味でも話の通じる相手だった。

「アヤメちゃんは元気?」
「元気だよぉ。もう慣れっこだからね。いつもどーり淡々と任務こなすだけの日々」
「そっかぁ」

 アヤメちゃんは私よりも一年、この世界が長いようだ。
 京都校の二年生で、高専入学のタイミングでトリップしてきたようだから。

「まぁでも、それが一番幸せなんよなあ」
「うん、本当にそう思う」

「あれ!何?くるるたち知り合い?」

 怪しげな人形を配り散らかしていた五条先生が、最後をアヤメちゃんにもってきていた。
 前に、真依ちゃんたちといっかいこっちきたときにねえ、と言いながら、彼女は人形を受け取っていた。
 ちなみに、彼女、これ本人も認めるぶりっ子である。
 トリップ特典でめちゃくちゃ可愛い顔面にアプデされていたので人生イージーモードを目指して絶賛奮闘中だそうだ。おもろくて好き、その試み。

「へえ〜!そうなんだ。まぁ、うちのくるると仲良くしてあげてね」
「もちろん!アヤメ、くるるちゃんすき〜!」
「私も可愛い女は大抵好き」

 ぐ、と親指を立てておく。
 いやまあアヤメちゃん可愛いし普通にぶってない時も好きなの事実なんだが、このノリは少し茶化したくなってしまったんだ、なんかこう、若いときのノリすぎる気がして。
 あっ、いやまあ今私ら事実として若いんやからよかったんか……。まぁいいや。

「あはは!」

 快活に笑って先生は箱のもとに戻る。
 そだね、大事なイベントがありますからね。

 私は特に場所を移動することもなくそのまま、アヤメちゃんの隣で、その光景を眺めている。

「そして!!東京都の皆にはコチラ!!!!!!」
「ハイテンションな大人って不気味ね」

 ばこ、と箱が勢いよく開く。

「故人の虎杖悠仁くんでぇーーーーっす!!!
「はい!!おっぱっぴー!!!!」

 いかん、がっつりスベり散らかしてもらわなあかんとは分かってるけどこの後のスベりがわかっとる分めちゃくちゃ笑ってまいそうになるわ。あかんあかん、耐えろ私。

 ちらとアヤメちゃんを見ると、彼女もしっかり隣でぷるぷるしている様だった。

「ほらほら〜〜」

 先生はスベり切ったこの空気の中、わざとなのか感知してないのか呑気に見せびらかすように虎杖カートを動かしてみんなの前を通っていく。ほらほら、ではなかろう。笑うからやめてくれマジで。

「宿儺の器………どういうことだ……」
「楽巌寺学長ーー!いやーよかったよかった。
 びっくりして死んじゃったらどうしようかと心配しましたよ」

 元気にガンを付けて、流石私らの担任、というところだろうか。
 当然のようにレベルの高い煽りをかますあたりは嫌いじゃない。
 真依さんと違って明らかに自分が上ですよ〜〜〜〜〜よちよちみたいなテンションの煽りは結構好き。私も煽リストとしてはあの方面にレベルをあげていきたい。まあ人のこと煽ること早々ないけど。

「糞餓鬼が」

 そしてガクガンジ学長のシンプル応対!これも好き。語彙力なくなるんかなんか知らんけどマジで一貫してシンプルな煽り対応!いいよね、見習っていきたい。しかも死ねとか子供臭くないのがいいね。

 ……?あれ?何煽り評論家しとんや私???

 そんなことをして一人非常に愉快な気持ちで風景を眺めていれば、くい、と軽く袖を引かれた。
 アヤメちゃんだった。
 彼女の方が断然身長が低いので、視線をおろして彼女を見れば、ちら、と視線だけで前方を示される。

 その先には、なんかいう事あんだろ、とすごむのばらちゃん。
 お、そうだな。私も分かっていたとはいえ、虎杖くんとの感動の再開、喜んどかなあかんな。

 ありがと、と小さく手を上げるだけのお礼をアヤメちゃんにして、私も静かに、彼等に歩み寄る。

「黙っててすんませんでした。生きてること……」

 ばちん、と小気味のいい音。
 謝った虎杖くんを、のばらちゃんが景気よくシバいていた。
 まぁまぁ、と自然なふりをして私も彼女の近くに立ち、ぽんと背中を叩く。

「いやでもこれはコイツが悪い!!!」
「まぁまぁ。よかったやん」
「ふん!!!」
「行菱も、ごめん」

 困ったように頭をかいて、虎杖くんは言った。ちょっとしゅんとしかけているのがちょっとかわいそうになって、私はあえて、能天気な声を出す。

「なんでえ。むしろありがとうやで?生きてるなんて夢にも思わんかったからめっちゃうれしいのに、今」
「行菱……!」
「ちゃんと戻ってこれてえらいねえ、生きててえらい!ありがとう」

 びえ、と泣いたふりをして目元に腕を当てる虎杖少年。
 いや大型犬〜〜〜〜!可愛くて思わず手が出てしまった。
 わしわしと、思春期の少年がちゃんと整えたであろう髪など気にせず撫でまわす。
 分かってるんだろうけど、のばらちゃんと伏黒くんというメンバー的に、誰も明言しないだろうから、私くらいは褒めておこうかなというコウテイペンギン精神。

 というか六割くらいは近所の素直で元気で可愛い少年にあめちゃんあげてかわいがる大阪のオバハンみたいな気持ちやなこれ。素直な若い子ってホント可愛い。いやほんとに。

「くるる!あんまり甘やかしちゃだめよ」
「ええやん。全員甘やかしていこ?」
「駄目んなるわよ」
「ちゃうちゃう、飴と鞭が大事なんよ。多分みんな鞭やろから、たまには飴の人おらな」
「意味分かんないわよ」
「のばらちゃんも泣かないでえらい〜〜〜」
「子供扱いしないで!!!!」
「いやそのセリフは可愛すぎるんよ????????」

 兎にも角にも、虎杖くん、原作どおり再合流、である。



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