* 14 *



「さあ出発するよ少年たち!」

 先生は今日も元気です。


 そんなわけで、六月。虎杖くんの編入の直後、と言ったらもう。
 そうですね。のばらちゃん初登場イベですね。

 そんなわけでそろって原宿に来ています。

「良いねパーカー」
「な。結構気に入ってる」
「私もおそろいさせてもらおかなあ」
「お、いいぜ」
「青いパーカーでこう、ゴレンジャーみたいにしてくか」
「いいじゃん、でもそれだと伏黒が青って感じじゃね?」
「あーそれはそう。じゃあ黄色かな」
「黄色ってカレー以外のキャラクター性しらねえや」
「それはほんとそう。キーマカレーすこってくかあ」
「なに言ってんだお前ら」

 などと他愛のない話をしながら、私たちは目的地へ向かう。
 とは言いつつ、私らは駅集合としか言われていないのでどこに向かっているのかは知らない。
 なんの比喩でもなく、五条先生が引率の先生をしているわけである。

「ってかなんで原宿?」
「せんぽーさまのごいこーってやつ」

 そんな感じで真っ黒学ラン集団は目的地に向かって歩き出す。

 しばらく歩いていると、遠巻きに、同じような制服を着た美人が見えてくる。
 うちの制服わかりやすいな……学ランだからそらそうなんだが、如何せん真っ黒すぎるんよなあ……。

 何やらやからのようなおねーちゃんで、街ゆくひとにやくざばりの絡み方をしていたので一瞬声をかけるのを戸惑いはしたものの、せんせえが声をかけて、それをおねーちゃんがこちらに気が付いてくれて、無事に合流を果たした。

「そんじゃ改めて。」

 けふん、と咳払いをして、美人は仁王立ちをする。背が高いっていいね!様になる。

「釘崎野薔薇。喜べ男子、目の保養よ」
「……?」

 失礼な反応をしたのは虎杖くんである。いや確かに関西人やったらつっこみまちかなと思ってまう言い方やけど!!!関西人ちゃいそうやし多分その反応は失礼!

「俺虎杖悠仁。仙台から」
「伏黒恵。」
「行菱くるる。よろしく!滋賀出身やで

 言い終えたわたしたちを、釘崎さんはじっとまんべんなくにらむように眺めた。うむ、見るからに気の強そうな人だな。

「女子はいいとして……ほんと私ってつくづく環境に恵まれないのね、ろくな男がいないじゃない」

 クソでかため息をついて、最後にもう一度、彼女は男性陣の方をひとにらみした。まぁ………なんというか、そういうやつに関しては…ドンマイとしかいえぬ。要は好みの人がいなかったんだね。どんまい。あれかな、体育会系もクール系もダメってことは狗巻さんみたいな可愛い系がタイプなんかな。そうだとするとちょっと意外やけどな。

「これからどっか行くんですか?」
「フッフッフ、せっかく一年が揃ったんだ、しかもその内二人はおのぼりさんときてる」
「いや私もっすよ先生」
「行くでしょ、東京観光」
「いやスルーか〜〜い」

 さてそこからは見知った茶番である。
 ぎゃあぎゃあと元気なのばらちゃんと虎杖くんを眺めつつ、だまされるままに移動を開始する。
 六本木て。逆に何すんねん。田舎もんには未知の世界すぎるわ。梅田でもちょっと迷うんやぞこちとら。


◆◇◆◇◆


「飲み込んだぁ!?!特級呪物をぉ?!??」

 やっぱり、ガチJKだけあって元気やな。
 そんなことをつくづく思う、今日この頃であります。

「きっしょ!!!あり得ない!!!!衛生観念キモすぎ!!!!!!!!」
「んだと?」
「これは同感」
「伏黒まで!」

 ちなみにわたくしめ、非常に役得。
 のばらちゃんは意外と?私に好意的に接してくれているというか。
 まあ唯一の女子仲間ということもあるのか、割と仲良くしてくれそうな感じである。
 現に今も、虎杖くんから隠れるようにして私の腕をがっしりつかんで背中の後ろで元気に首をぶんぶん振っている。
 まあ彼女の方が大きいので、かがむ形ではあるんですが。

「君たちがどこまでできるか知りたい。ま、実地試験みたいなもんだね」

 この文脈だと僕はお留守番で良いんでしょうか。

「野薔薇、悠仁。2人で建物内の呪いを祓ってきてくれ」
「げ」

 あ、ということですよね。やったぜ労働力節約。いくら体が若返っていて、体力がついてきたとはいえ、元々の性格もあるしこれまでの癖もあるし、働かないでいいというのは無条件でうれしくなってしまうものなのである。

「あれ、でも呪いは呪いでしか祓えないんだろ。俺呪術なんて使えねえよ」
「君はもう半分呪いみたいなもんだから、体には呪力が流れているよ。
 でもま、呪力のコントロールは一朝一夕じゃいかないから、これを使いな」

 そういって、先生はぐるぐる巻きの何かを手渡す。あれはなんていうんだろう。タガーナイフ?にしては洋風さがなさすぎるかあ。

「おぉ」
「呪具”屠坐魔”。呪力の篭った武器さ。これなら呪いにも効く」
「へぇー」
「あーーーーーそれから、宿儺は出しちゃ駄目だよ。アレを使えばその辺の呪いなんて瞬殺だけど、近くの人間も巻き込まれる」
「…わかった」

 真面目な顔をした虎杖くんの、何でもなさそうな顔ののばらちゃんは、二人で全く息の合わない足並みでビルへと向かっていった。
 チームワークは大丈夫なんですか、あの人たち。まあ大丈夫なの知っとるんやけどさあ。

「やっぱ俺も行きますよ」
「無理しないの。病み上がりなんだから」
「そーよ。そうやって甘やかすと後進が育たないのよ」
「くるるは甘やかされてる側の人間でしょ」
「あ、ばれましたか。へへへ」
「全く、早く親離れしてよ」
「嫌ですねえ………」
「なんで!」
「でも、虎杖は要監視でしょ」
「まぁね。でも、今回試されているのは、野薔薇の方だよ」
「…釘崎は経験者ですよね。今更なんじゃないですか?」
「呪いは人の心から生まれる。人口に比例して呪いも多く強くなるでしょ。
 ”信仰”は、また別だけど」
「…あぁ、まあ、」
「地方と東京じゃ、呪いのレベルが違うからね」
「成程。だから私は田舎任務が多いわけですね」
「まあ、そういうことだね〜」
「田舎任務好きなのでずっとこのままでいいなぁ。」
「まぁ、田舎は田舎で”アタリ”を引いちゃうとえげつないけどね」
「アタリ、ですか」
「さっき言ってた”信仰”ってやつだ」
「そ〜〜。氏神とか土地神ってなって来るとね。そりゃ曲りなりにも”神”の名を冠するくらいだからね。
 ただシンプルに”呪い”と呼べるかだって怪しいけど、その辺の呪いみたいにストレートな負の感情から来るものじゃない分、厄介なんだよ」
「あ〜〜〜〜まぁ、めちゃくちゃ想像はつきますね」
「そうでしょ〜」
「それはそれでロマンがあるなあ………。ただの”呪い”なのにそれを無理やり”土地神”として祀り上げてる歪んだ風習、とか…元々は災厄の存在だったのを祀って触れないようにしているだけの名ばかりの”神”とか……エモやん……」
「エモってなに?」
「エモーショナルやなあ、の略です、多分」
「若い子って面白い言葉使うよねえ」
「先生はアラサーですか?」
「先生はまだまだお兄さんです」
「まあ最近の人は35くらいまでお兄さんって感じですからね」
「そうそう」
「まぁでも、田舎の呪いはこっちの呪いと全然形質が違いますよね」
「そうだね。都会の方がレベルが高い、とはいえ呪力量や所謂等級だけの話じゃない。
 同じ等級程度の呪いでも、都会の奴らは”狡猾さ”がまるで違う。」
「狡猾さ、ですか」
「そう。知恵を付けた獣は時に残酷な天秤を突きつけてくる。」

 命の重さをかけた、天秤をね。

 そういって、先生はけらと笑った、
 私結局先生のこととか大して知らないままここにきてしまったんだけど、この人っていうのは、アレなのか。こういう状況とかでものばらちゃんの様子とか見えていたりするのか。
 りくがん、とやらはどういうアレなんだ。千里眼みたいなもんなんか。

 ちなみにちらっと伏黒くんを伺ってみる。
 あぁ、やるよなあいつら、みたいな顔をしていた。

「くるるなら、そういう時、どうする?」
「どうする、と言われましてもねえ……」
「そんなの完全に状況によるじゃないですか」

 伏黒くんもかばうようにそういった。そーだそーだ。

「まぁ、それはそうか」

 あはは。と、先生はなんでもなさそうに笑っている。
 恵は普通に自爆しそうだけどね〜なんて軽い口調で言ったセリフが本当に軽く笑い飛ばしていいものなのか、或いは全然そんなことはないものなのかは分からない。
 まだ私はそんなことがわかるほど、先生との付き合いが長いつもりはないのだ。

 先生とは違って私は何もみえないけど、ぼんやりビルを見上げて眺めている。
 そろそろ、だろうか、と思った瞬間。
 丁度良く、呪霊の影が窓から飛び出してきた。
 伏黒くんが身構える。

「お」
「祓います」
「待って」

 次の瞬間、呪霊は軋んだ声で唸りだす。
 そしてそれは、断末魔へと変わった。
 ざふ、と、その呪霊は空中で霧散した。
 噂の共鳴りというやつだろう。そういえばともなり、って友引の語感を感じるな。

「いいね、ちゃんとイカれてた」

 そういうと、先生はよっこいせ、と言って立ち上がる。
 そしてどこかへ電話を始めた。

「うん、そうそう。いける?ラッキー。じゃあよろしく」

 などと終始ラフな様子で会話を終え、電話を切った。
 まあ先生は人生において終始ラフな感じがあるけどな。

 まあ、大方補助監督の管轄席だろう。誰か空いていたら車よこせ、ってだけだ多分。
 体のいいタクシーと勘違いしていないか。大丈夫か。まあ、五条悟だからいいのか。

 しばらくして、ビルの方から元気にぎゃいぎゃいと騒ぐ声が聞こえた。
 任務終了後もなお、これだけ騒ぐ元気があるというのはスタミナおばけで間違いないな。いいことだ。

「あれ、どうしたのその子」

 白々しいのか本音なのか、降りてきた二人を見て、先生がそう言った。
 虎杖くんが男の子を抱えている。

「拾った」
「拾ったってあんたねえ…」
「ビルの中にいたんだ?」
「そうなのよ」
「そっか。じゃあまずその子を家まで送らないとかな」

 ちら、と先生に視線をやる。
 まあいつも通りの目隠しなのでよくわからないが、でも明確に「ね?」みたいな笑みを返された。
 おう、そうだな。

「車は手配してあるから、ちょっと送ってくるよ。恵、ついてきて」
「えぇ」
「じゃあくるるでもいいけど」
「…………行きますよ」
「あっははは。恵は相変わらず素直だねえ!」

 なんだか知らんが嬉しいらしい先生はけらけらと笑いながらばしばしと伏黒くんの背中を叩いていた。やめてください!とシンプルに被害者はキレていた。

 先生ももしや伏黒くん好きだな…?まあそりゃ愛着くらいはあるかあ。

「あ、きたんじゃないですか?」

 そうこうするうちに、車がやってきた。
 よくみる、うちの車。長いこと高専にいると車のナンバーまで覚え始めるらしいけど、私はまだそこまでではない。

「あ、ほんとだね。いくよー」
「はい」
「伏黒くんのいやそうな顔よ」

 あまりに素直に顔に出ているものだから私らも思わず笑ってしまった。
 伏黒くんは子供を連れた五条先生と車に乗り込んで、ぶいーんと出発して行った。

「じゃあまあ、一仕事終えた人たちはゆっくり休憩にしましょう」

 近くに自販機があったので、2人に労いのジュースを買った。
 飲みながら、さっきまで先生たちが座っていたところに腰を落ち着けて、ふう、と、一息ついていた。

「どうだった、東京ジャンルは」
「なによ、ジャンルって」
「結構、形質が違くなかった?」
「まぁ、言いたいことも分からないわけじゃないけど……」
「でしょう
「まぁでも、問題ないわね。
 私も、こっちの奴らはどんなもんだって思っていたのよ。でも、予想外の行動はとるけど、負けることはないわね」
「そんなに余裕綽々だったか?」
「何よ!圧勝だったでしょ!」
「お、そ、そうか…?!」
「圧勝だったわよ、瞬殺よ瞬殺」

 ふん、とのばらちゃんは鼻を鳴らした。
 逆に虎杖くんはとても不思議そうに首を傾げていた。

 まぁ、私は実際の状況もしっとるからね、あれやけど。
 本人的には少なくとも虎杖くんに助けられた部分もある、ってわかってるくせに見栄張っている、っていう感じがあってとても可愛いな。

 まぁ無粋ぶるつもりもないので、問題なかったなら何よりや、と微笑んでおいた。


「お疲れサマンサー!」

 しばらくすると、五条先生たちが戻ってきた。
 一緒に、補助監督さんが降りてくる。
 そういやなんで今日大きい方の車なんだろ、と思ったが、運転手含めたら6人おるんやな。普通車では乗れへんかったわ。

「子供は送り届けたよ。今度こそ飯行こうか」
「ビフテキ!!!!」
「シースー!!!!」

 先生のそのセリフに2人は勢いよく立ち上がった。
 ああ、ざぎんでしーすーというやつですな。

「くるると恵は?」
「私はタンパク質あれば何でも」
「そういう指定がくると思わなかったな???」
「肉とか魚とか卵とかが好きなもので……」
「なるほど」
「俺もなんでもいいです」
「2人とも欲がないなあ」
「違いますよ今日は頑張った2人に決定権があっても良いんじゃないかと思いまして」
「良い子だなあ」
「そうですかねえ」

 まぁ残念ながら学生時代には言われ慣れた言葉ではありますね。
 ちょっと社会人になってからは問題児のほうに寄っていた気もしますけど。

「寿司も捨てがたいわね」
「おっじゃあ寿司すっか寿司!」
「寿司なら先生おすすめのお店あるよ」
「「おお!」」
「河童寿司って言ってね…」
「はぁ!?」
「河童寿司いいよな!釘崎河童寿司行ったことあるか??」
「ない」
「じゃあ決まりな!」
「なんでよ!もっとあるでしょ?!」
「でも河童寿司は寿司が新幹線で来るんだぞ」
「えっ…?!」

 などと楽しく騒いでいる3人を、伏黒くんと補助監督のお姉さんと私で眺めていた。
 微笑ましいなあ。

「これはおのぼりさんの舌を簡単には肥えさせないための先生の策略なんやろな、多分」
「まぁ、一発目から良いとこ行くと水準がそれになっても困るだろうしな。本人たちが」
「子供は子供らしくってことやな」
「だな」
「いやワンチャンマジで先生がクソ高高級店を知らないだけかもじゃん?」
「えそんなことあるんかなあ」

 ちなみにこのメンヘラホス狂いみたいな話し方をするのが補助監督の畑田かなでさん。
 メンヘラホス狂いは言い過ぎたけど、まぁ実際みるからに!!!な地雷女スタイルだ。マゼンダの鮮やかなインナーカラーにがちゃがちゃとピアスをしていて、ツインテール。
 メイクも全部含めてトータルコーディネートが完璧な地雷系美女。私は結構好き。
 めんどくせえんだよあの女、という人もまあ少なくないけど。特に補助監督さんの間では。

「でも先生ボンボンですよ」

 珍しく伏黒くんもそんなことをいうもんで、確かに、と女2人、揃って笑ってしまった。

「じゃあ決定!」
「「おー!」」
「あ、決まった?どこ?」
「「河童寿司!」」
「おけさ、乗れ乗れ

 結局回転寿司で良いそうで、私たちはかなでさんに促されるまま車に乗り込んだのだった。










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