* 11 *



「なんか新鮮やなあ」

 などといいながら、ワイシャツ一枚の伏黒くんをまじまじと眺める。
 うちのとはちょっと違う学生服。学ラン。
 一式借りて、一旦きてみたはいいが、いや、学ランはいらねえか、とその上着を脱いで、車の中に放り込んだといういきさつ。まあ確かに、こんな時にまで上着着こむ意味もないか。

「私もブレザーおいてこ」

 男子は学ランで、女子はブレザー、という仕様らしい。

 何がって?
 あぁ、そうそう。今日は出張で任務に来ているのだ。昨晩から。
 高校に呪物がおいてあるという情報が入って、それを回収するだけの任務。
 しかも、それどうやら特級呪物らしいよ。で、あるって聞いてた場所を散策してたら、全くそれが見つからないので、翌日、放課後の高校内に潜入することになりました。っていう流れ。

 …って言ったらもうお察しかもしれない。
 そうですね。みんなご存じリョウメンスクナ大先輩ですね。

 まぁそりゃそうだ。時間の流れには逆らえない。もう、世の中は六月になってしまっている。

 でも、ついに。あの伝説の呪物、リョウメンスクナに出会えるのかと思うと非常にテンションが上がる。
 これはもう、原作漫画のファン以前に私の中のオカルトオタクが沸いてる感じだ。
 だから受胎あとよりも指の状態を拝見したいなあ…!高専にもいくらか保有分あるとは聞くけどこんな新人ペーペーには見せてもらえるわけないしなあ…!

「わあ〜〜〜なんか着慣れてる感ちゃんと出てるね!可愛い!!」

 伏黒くんと同じようにブレザーを脱いで車に放り込めば、みつきさんがきゃっきゃとはしゃぎだした。お察しの通り、今回の補助監督。っていうか自分やったんかい。

 ってか、そらあんた。トリップしてきたときに着てた、私の高校時代のガチのカーディガンやからね。トレードマークみたいなもんよ。

「まあ実際、ちょっとだけですけど前の学校の時きてましたしねえ」
「そうなの?前の学校ブレザーだったんだあ。いいねえ」
「楽ではありますよねえ」
「支度できたんなら行くぞ」
「あっはあい」

 最後にもう一度、リンフォンだけ確認をする。大丈夫。着脱用の金具も問題なさそう。
 …よし、大丈夫だ。

「ん。いくぞ」
「はい!」

 なんでそんな気合入ってんの、と伏黒くんが言った。みつきさんはにこやかに気を付けてね〜と手を振っている。

 いや、だってそら気合も入る。
 下手すれば誰かが死ぬかもしれないんだぞ。
 ついに原作時間軸に入った、とかそんなことよりも、私という異分子のせいで、バタフライエフェクト的に、本来ならば死なないはずのキャラクターが死んでしまう可能性だって、大いにあるのだ。
 私のこの、大した考えもない一挙手一投足に、とんでもない大番狂わせの波紋が起こされるかもしれない。

 そんなの、誰だって、怖いに決まっている。

 できるだけ干渉しないように、なんていうのはトリップヒロインの常套句だけれど、本当に今、恐ろしいほどにその気持ちが、ようやくわかった気がする。

 そうだ。
 たかが、私が一つ転ぶだけで、私の知る世界線とは全く違う地獄が繰り広げられてしまうかもしれないのだ。

 ただそれは同時に、当然だが原作内では失われるはずの命を救ってあげられる可能性だってあるということだ。
 原作ファンなら誰だって一度は夢見たであろう、順平くんが幸せに高専で暮らす世界線だって、実現が可能なのかもしれない。ななみさんだって、生きながらえてもらえるかもしれない。

 だけど、そんなことを軽率に求められないのは、そんなことをしてしまったが故に起こる、大きな大きな、蝶の羽の風が恐ろしいからだ。

 確かに、その時に目の前にある命を、救うことは、人によっては可能かもしれない。
 だけど、どうだ?
 そんなことをしたが故に、思いもよらないところで因果が結ばれて、ともすれば、原作キャラが全滅するような大惨事になる可能性だってある。

 特に、この世界なんてそれが顕著だと思う。
 何か一つの、ほんの些細なファクターで、もしかしたら、虎杖くんは受肉に失敗するかもしれない。
 そうなったら、そもそも、私の知っている世界は破綻する。
 そのファクターが、どれだけ些細なものか、或いは大きなものか、私には分からない。だから怖い。だから、怖いのだ。

「見慣れない奴が二人並んでたら不審なんかなあ」
「いや、一人よりいいだろ。大体こういうのは堂々としてればほぼ確実にばれない」
「流石、場数が違うな」

 そしていかにも高校生らしい発言だ。
 私はする側になったことないけど、うちの高校にはよくうちの生徒の友達に制服を借りて、放課後に潜入してくる子たちいたわ。我が母校、ゆるいで有名だったんだろうな。

「さて、じゃあ高校生らしい会話でもしますか」
「……例えば?」

 なんか振って、現役高校生!と思って伏黒くんを見上げるが、あえなく返り討ちにされてしまった。
 ええ。おばさん高校生が何喋るか知らんわ。

「そういわれるとむずいな。いやー、やべー、今日3時間しか寝てねえわー。とか」
「お前の中の高校生のイメージどんなだよ」
「ししゅんき……?」
「それを想定しての発言だったのかよ」
「ええ…ちゃう?あ、じゃああれよあれ。お前好きなAV女優誰???俺最近金沢恵理」
「だからなんで行菱も男子サイド想定なんだよ」
「は、それはそうか」
「大喜利大会でもしてんのか」
「そんなわけないやん無茶いうなこんなおもんない奴に」
「自己評価どうなってんだよ」

 などと言いつつも、校舎が近くなってきて、人も増えてきた。あからさまに部外者ですって会話はやめなきゃなあ、と少しだけ気にしてみる。
 あ、そうだ。

「ねぇ今度のデートどこいく?」
「………」

 ちょっと!!黙殺はやめろスベったみたいになるやろ!!!!

「私水族館結構好きだから、そういうのもいいかなあって思うんだけど」
「…まぁ、いいんじゃねえの」
「ほんとー?」
「それだったらちょっと遠出してもいいかもな」
「あ、いいね!電車の長旅好き」

 信じられないものでもみるように人のことを見て、少しして脳内処理が済んだのか、伏黒くんも話を合わせてくれた。
 だがめちゃくちゃ笑いこらえてるのが伝わってくる。目が一切合わない。まっすぐ正面を向いたままだ。
 だが、ウケるともっと欲しくなるのが関西人の性。知らんけど。

 さらに甘えるような声を出して、私は会話を続ける。

「だったら朝集合だね」
「……」
「?」

 不意に、伏黒くんはこちらを向く。まじまじと眺められる。
 なんや。首をかしげるだけで疑問を呈し、同じように黙って見返していれば、彼は感心したように言った。

「ここまで嘘が下手な奴も珍しいな」
「ええ!?なんで?!」
「自覚ねえのかよ」
「ないわそんなん!」

 なんでや!中々名演技やったやろ!!
 と憤慨していれば、珍しく伏黒くんは笑っていた。ええ…?!めっちゃ普通に笑うやんこの人!
 なんか知らんけど、まあウケたならええか…?!

「まぁ、とにかく、面白いからそれはやめろ」
「ええ、めっちゃ上手やったやろ付き合いたての彼女のモノマネ」
「いやコントすぎる」
「うそやん!」

 残念。どうやら女優の才能はないようだ。まあ確かに嘘つくんは苦手やけども。

「ほら、ふざけんのも終わり。いるぞ」
「あっ、はい」

 笑いの後遺症か、優しめの声音で窘められ、視線だけで方向を示される。
 眼前の校舎の、その向こう。中庭でもあるんかな。大きな、呪霊の気配がした。

「ちなみに標的は?」
「気配がデカすぎて細かい位置を特定しづらいな。行菱は?」
「オナジクデース」

 ……さあ、どうしましょうね。
 確かに師匠の仰る通りリョウメンスクナ氏のものとみられる呪力は大きすぎてよくわからない。こう、物理的に大きい感じだ。この学校全土くらいの規模感の大きい実体が、校舎の下にうまっている、っていう感じ。
 気配だけが大きい、と言うより、学校くらい大きな呪物がある、というような質量。

 校舎の裏に抜ける。中庭ではなかった。ラグビー場、という奴の様だ。

 ……あぁ、もうここでコイツが出てくるわけか。

 どこか既視感のある呪霊。ダニのような、丸いシルエットの、虫のような呪霊。これはあんまり好みじゃないなあ。序盤から出てくる特級呪霊さんとか結構好きだけどな。

 そして、問題がある。

 結構、普通に、思ったよりも、沸いている数が、多い。

 原作序盤、さらっと流されてたけど、伏黒青年、水面下で結構な労力使ってたんだな、これ。
 本題に触れる前にこの辺りはサラっと祓っていたってことだろ?

「……これ、普通に学生生活させてて大丈夫なの」
「余裕でダメだな。この量じゃもっと大きな事件が多発していても可笑しくないが…」
「沸き始めたのが、最近ってこと?」
「ああ、そういうことだな。誰かが、特級を持ちだし、表層の封印を開いた。漏れ出した呪力におびきよせられて、ってとこだろ」
「そしてその呪力でこんなに大きくなりました、っと」
「そういうこった。面倒だが一旦学校を封鎖するしかないだろうな。今晩まで待つ、なんて悠長なことは言ってられないかもしれない」
「そうですねえ」

 私たちが歩き回っても不審じゃない範囲、かつ呪力でじゅ!ってする程度で祓える低級はちまちまと不審にならない程度に処理をしていく。

「向こうに抜けると中庭だ。もし、あのデカいのが動き出したら、全力でそこまで走れ」
「分かった」
「速度が足りなければ担ぐ。文句いうなよ」
「大丈夫、潔く荷物になり切る」

 最も警戒すべきは、あの大きなダニだ。まあ、ダニであってるんだろう。
 あれ、2級くらいの呪霊みたいだ。そういや原作でも伏黒くんそんなこと言ってたかな。
 あいつが動き出すと非常に厄介。私だけでは対処しきれへんし、何よりぱんぴたちに気付かれないように倒す、なんてのが到底無理になってくる。あと生徒たちが被害被らないとも限らない。人が多い間は、とてもじゃないが動かすわけにはいかない。

「行菱」

 短く、静止が入る。
 寸でのところで手を止めて、私は静かに、今まさに祓おうとしていた呪霊から距離を取った。

「…一旦、やめだ」

 言いながら、伏黒くんも手に集めていた呪力をふっと消す。
 同時、ざわ、と、生徒たちの騒めきが耳に入った。

 ちら、とだけ奴を見る。
 その黒豆みたいな大きな虫の目は、じっとこちらを見つめていた。

 なんでもない顔をして目をそらして、騒めきの方へ視線をやる。
 呪力的にばれているのかもしれないし、あのクラスならまだ、これだけたくさん人間がいる中では見つけられないのかもしれない。
 なんにせよ、本当にあまりに虫っぽくて無理。

 数人の生徒が、バタバタと足音を立てて私たちを通り過ぎ駆け抜けていく。
 ラグビー場の横の区画、ただの平坦な砂場、グラウンドだろうか。そこに、小さな人だかりができている気配があった。

 少しだけ様子が気になったのか、何を言うでもなく伏黒くんがそちらに足を向ける。
 私も、言及することなく、ついていった。
 まあ、ほら、この後の展開はしっとるしな????

 グランドには、予想通り、いかにも体育教師!って感じのおじさんと、虎杖悠仁。
 生虎杖じゃん。すご。
 そして、なるほど。微かに感じるこの気配が、リョウメンスクナの残穢というわけか。

 そして、選手虎杖の投球。
 うっわ。生で見ると本当にえげつないな。ゴリラとかいう次元じゃねえ。

「すっごいねえ」
「呪力なしであれだからな。禅院先輩みたいなタイプか」
「いや…もはや人外まであるが????」
「…まぁ、いい。一旦金枝さんの所に戻るぞ」
「はあい」

 と、言った、瞬間。

 風圧。

 ぶわ、と、強い風が顔に突きつけられて、前髪が揺れる。


 ――――強い、”呪い”の気配。


「!」

 ば、と伏黒くんと顔を見合わせる。
 わかっていた。わかっていたが、反射的な反応だった。

「おい、オマエ!!」

 咄嗟に駆け抜けた背中に声を投げるが、時すでに遅し。
 虎杖青年はもうはるか彼方である。

「って速すぎんだろ!!!!!」

 伏黒くん瞬間湯沸かし器になっててワロタ。
 シンプルに悪態をついたのち、盛大に舌打ちをかましていた。

「……仕方ないので、予定通り戻りましょうか」

 もうほとんど見えなくなったフィジカルお化けの背中を眺めながら、私は彼の肩をぽんと叩く。
 まあ、作戦は、変更になるわけだけど。


◆◇◆◇◆


 さて、日が暮れはじめ、私たちは病院に到着した。
 金枝さんと合流して、虎杖青年のことを調べ、そして、この病院まで送ってもらった。
 場面は死亡退院、という奴である。
 虎杖青年は、受付で書類を記入していた。

「じゃあ、ちょっとこれも書いて待っててくれる?」
「はい」

 看護師さんが一枚書類を追加で渡して、そして再び、奥に引っ込んだ。
 へえ、病院でもう死亡診断書記入するのか。地域柄かな。

 ぴた、虎杖青年の手が止まる。
 私は静かに、彼に近寄った。
 別に、伏黒くんからのお咎めは無いようだ。

「ここは、病院の住所。ここに書いてあるのをそのまま書けばええよ」

 びく、と、虎杖青年は肩を震わせて振り返る。
 悲しみ深いと、注意力というのは散漫になるもんだ。

「あ、うん」
「……そやね。で、住所。一緒の所に住んどった?」
「入院するまでは」
「じゃあ、その住所やね。本籍地は、まあ、適当でいいよ。」
「本籍地?」
「そう。まあ間違ってても空欄じゃなければとおるから、適当に宮城県、だけでも書いておいたら?」
「そういうもんか」
「そうなんよ。おじいちゃん、お仕事はしてた?」
「なんで爺ちゃんって」
「生年月日と名前見たらわかるよお」
「あ、そっか」
「まあお仕事してはらへんやろし、ここにチェック入れて」
「うん」
「で、ここはお兄さんの情報。名前と住所と、あとここにも本籍の枠あるから忘れちゃだめだよ。」
「うん」
「ゆっくりでいいからね」
「うん」

 徐々に従順になってしまった。めちゃくちゃ可愛い。これは、黙っていうこと聞いてりゃいい奴だと認識してもらえた感じだな。大型犬だ。

「おっけ。あとわかりにくいけどここ…。お兄さんの電話番号」
「枠せま…」
「はみ出てもいいよ。で、こっちに孫って書いて」
「うん」
「…うん。以上。ハンコは…もってないよね」
「シャチハタなら、ある」
「そうなの?えらいね」
「や、病院の先生がもってきておいとけって」
「おお……そうか…。まあ入院するにも移動にも書類の手続きいるかもしれんもんな」

 病院ってそうなんや。なんというか、残酷やな。
 いつ死んでもいいように、っていう意図が透けたような気がして、ちょっとだけわびしくなった。

 伏黒くんは、決して距離を詰めないまま、静かにこちらを見ている。

「かけた?」

 看護師さんが戻ってきた。

「…うん、全部かけてるね。じゃああとこっちの書類のここにハンコ押して」
「はい」

 ちら、と看護師さんが私を見る。
 いつの間にか友達増えとるわ、みたいな顔してたので、にっこりと会釈をしておく。

 そしてまた、記入した書類一式をもって、看護師さんは奥へ戻っていった。せわしないな。大変だなお姉さんも。

「用は済んだか」

 伏黒くんが、問い掛ける。
 なんとなく、私に言われた気がして、多分済んだよ、と返事をする。

 は、として虎杖くんは奥を見る。

「虎杖悠仁だな」

 というか書類手続き終わるまで待ってくれるの優しいな。
 魔法少女の変身ターンとか待ってくれるタイプの敵キャラやな。

「呪術高専の伏黒だ」
「あ、同じく行菱です」
「悪いがあまり時間がない。お前の持っている呪物はとても危険なものだ。今すぐこっちに渡せ」

 誰やお前と言わんばかりの虎杖くんは、お前もかと私を一瞥した。
 これだ、持ってるだろ、と伏黒くんがスマホで写真を見せる。便利な時代である。

「んー?」

 予想外のことで、平静を取り戻しているらしい。
 先ほどまでの声音と少し変わって、平然としたように、虎杖青年はそれを見た。

「あー、はいはい、拾ったわ。俺は別に良いんだけどさ、先輩らが気に入ってんだよね。
 理由くらい説明してくんないと」
「……」

 めんどくせえこと言いやがって、とおもっくそ顔に出ているが、それでも彼は、順を追って説明を始めた。
 意外と、こういうところが甲斐甲斐しいと思うんだよな。

「…日本国内での怪死者・行方不明者は年平均10000人を超える。
 その殆どが人間から流れ出た負の感情、”呪い”による被害だ」
「呪いぃ?」
「お前が信じるかどうかなんてどうでもいいんだよ。続けるぞ。
 特に学校や病院のような大勢の思い出に残る場所には呪いが吹き溜まりやすい。
 辛酸・後悔・恥辱。人間が記憶を反芻する度、その感情の受け皿となるからな。
 だから学校には大抵”魔除け”の呪物がおいてあった。
 お前の拾ったものもソレだ。
「魔除け?ならいいじゃん、何が危険なの」

 意外と虎杖くんもちゃんと話を聞いてるよな。
 朗らか阿呆キャラに見せかけてわりと戦略脳筋タイプやからな。流石東堂先輩のブラザー。というところか。あの人なんかまさにテクニカルゴリラの代名詞やもんな。

「魔除けと言えば聞こえはいいが、より邪悪な呪物を置くことで他の呪いを寄せ付けない、毒で毒を制す悪習だ」

 任務に出だして思ったこと。
 日本、そういう悪習つくりすぎがち。めっちゃほんとにそれは思う。

「現に長い年月が経ち、封印が緩んで呪いが転じた。
 今や呪いを呼び寄せ肥えさせる餌だ。
 その中でもお前の高校に置かれていたのは特級に分類される危険度の高いものだ。
 人死にが出ないうちに、渡せ」
「いや、だから俺は別にいいんだって」

 ぽい、と、青年が箱を投げる。
 噂の木製の箱だ。いいね、風格がある。

「先輩に言えよ」

 受け取ったそれの中を確認して、伏黒くんは瞠目する。
 私は虎杖くんのすぐ隣にいるのでここからは見えないが、まあ、その顔を見れば原作知らなくても予想はつくよね。

 ぶち、と音が聞こえた気がした。

「中身は!!!!?」
「だァから先輩が持ってるって!!!!!!!!」
「ソイツの家は!?」
「知らねえよ、確か泉区の方………」

 ふっと、考え込むように言葉が止まった。

「なんだ」
「そういや今日の夜学校でアレのお札はがすって言ってたな」

 ポケットからスマホを出す。
 一応、何がどう原作と変わるか分からないので、未来予知レベルの勝手な行動はしない様にしようとは思っているが、今、言質が取れたので。
 みつきさん、わりとふわっといなくなりがちなので、先に連絡を入れた。
 大至急。高校に戻ります。と。

「………」
「え…もしかしてヤバイ?」
「ヤバイなんてもんじゃない。ソイツ、死ぬぞ」
「……!!!」

 ぶん、と、すぐに返事はかえって来た。
 珍しく、ちゃんとじっと病院の駐車場で待機してたらしい。

「あ、おい!」

 だが、まあ虎杖くんにかかれば、車なんか乗り降りする方が時間がかかるんだろう。
 初速からトップスピードってレベルで駆け出した青年を、伏黒くんもそのまま追っていった。

「私車もってあとで合流しますね〜〜〜〜」

 背中に投げかける。
 手を上げるだけの返事があった。

「あれ、虎杖くんは…」

 病院の封筒を二つ持った看護師さんが戻ってきて言った。

「あ、ちょっと急ぎで呼び出しがあったみたいで。それ、渡しておきますね」
「いや、本人じゃないと…あ、ちょっと」
「大丈夫です!なんなら彼のカバンもここにあるから」

 そういって、看護師さんの手からもいだ封筒を傍らのカバンに入れて、私も小走りでロビーを後にした。
 どうせ診断書やろ。なんなら夜間窓口出してきたってもええんやで。

 そしてそのまま、タイミングよく入口まで車を回してくれていたみつきさんの車に飛び乗って、私も高校へと戻る。

「何があったの」
「追ってきた気配、あれ、ガラでした」
「え???」
「箱だけ。箱に移った残穢だった。本丸は別の人がもっとうらしくて、今晩、学校で、札をはがして遊ぶ予定、とか」
「え!?何それ人類終焉シナリオ…!?」
「いやマジでそれくらいの勢いある」
「急がなきゃじゃん。ちょっとつかまっててね」
「はい」

 みつきさんも、少し、速度を上げた。





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