* 4.5 *
唐突に、髪を切った。
それも、自分で。
休みはちゃんとあるし、言えばオフにはしてくれるのだから、ちゃんと美容室を予約していけばいいのだけれど、どうしてもそれが面倒臭くて、ついに、自分で切ってしまった。
まあ長さには余裕があるように切って、どうしてもやばかったら、美容室に行こう、という感じだった。
まあ、結果、行こう、と決意はしたわけだけれど。
これが、社畜時代の毎日くくってシニヨンにぶち込んでます、っていう生活だったらこのままでもいいかなとおもうんだけど、如何せん今は降ろしっぱなしの生活か、やってもくくるだけ。シニヨンに入れない以上
毛先の切りの雑さがモロに見えてしまうのでな。
そんなわけで、ぼんやりと、ごみ箱の中を見下ろす。
切り落とされた、私の、一部だったモノ。
袋を変えた直後だったので、箱の中には、ただただ、私の髪の毛だけが入っている。
至極、不思議な感覚に陥った。
おもむろに、ごみ袋に手を突っ込んで、その、ごみと化した、元、私だったもの、を掴む。
ざら、とした、触りなれた、痛んだ髪の感覚。
今までは、私の体ともいえるくらい、当然のように毎日、触っていたもの。
それが、いとも簡単に切り離されて、今では、全くのごみとして、箱の中に落ちている。
痛くは、当然なかった。
でももし、腕が痛みなく切り落とされたのなら、同じような感覚なのだろうな、と思った。
きっと、呪術に、髪の毛を、初めて使った人は、この感覚を知っている人なんだろうな。
確実に”その人”の一部だったもの。
自分の腕とも足とも変わらない、身体の一部だったもの。
要は爪と一緒のはずなのに、もっと特別で、もう少し、重要性があるような。
なんとなく、そんな気のする、オブジェクト。
そりゃ、依り代として使える、と、その人の代替だと、思えてしまうよな、と、おもった。