* 04 *



 そんな大きな大きな転機から、3日。
 翌日は、丸々、手続きやら学内見学などで潰れてしまって、その次の日は、呪術界や呪力についての大まかなことを補助監督のお兄さんに教えて貰うので全部潰れ。

 今日は午前中はオフで、午後から晴れて、呪力の実技授業である。
 当然ギリギリまで寝ていた。

 ちなみに、令和の寒い季節を生きていたはずの私は、いつの間にか平成の終わりの初春に連れてこられていたようだ。

 まあつまり、4月。
 伏黒くんは入学してるが、虎杖くんものばらちゃんもまだ高専にはいない時期。

 これもまたよくある展開やけど、原作主要キャラよりも先におって先輩ヅラするのっていざ自分の身になると非常に申し訳ないな、なんか。


「くるるちゃーん」
「あ、みつきさん」
「おひるごはん食べた?まだなら一緒に食べよー」
「ぜひー」

 長い髪をゆるく纏めた、口元のホクロがずるいイケメンお兄さんがぶりっ子よろしく萌え袖カーディガンでこちらに手を振っている。

 補助監督の金枝みつきさん、という人だった。全然呪術のことを知らない挙句こんなところにぶち込まれた私を随分気にかけてくれているらしく、よく構ってくれるお兄さんだ。

 昨日丸一日割いて、色々座学的なことを教えてくれたのもこのお兄さんである。
 スタイルもいいしかわいこぶった語調も可愛いし、でも高身長イケメンだしなんと言うかとてもずるい感じの人だ。
 あざとい。いやこんなん好きじゃない人おらんやろっていう感じ。強いね。面倒見もいいしね。

「やったあ」
「今日はちゃんと食べられるんですね、お昼」
「うん、今日は落ち着いてるみたいだねえ」
「いい事ですねえ」

 などと呑気にお話しつつ学食へ向かう。生徒も先生も補助監督さんもここで食べるのがほとんどらしい。
 ちなみに補助監督さんきっかり何時からお昼休憩、なんて勤務体系では当然ないようで、よくお昼を食いっぱぐれるそうだ。
 なんだか、凄く親近感を覚えるぜ、、、

 まあ職業柄いつ忙しいか分からんのやろうしね。大まかな繁忙期とかはあるにしても。

 ちなみについ15分前まで寝ていたから全然普通に朝ごはんですとは言わずにしらこいかおでお昼ご飯などと言っている。
 今日はしっかり12時間寝ました!体が若いので腰のひとつも痛くならなかったです!最高!


◆◇◆◇◆


「行菱」

 みつきさんとのんびりご飯を食べて、指定された時間に遅れないように私は学食を出た。
 そして、指定の場所に向かっている途中で、伏黒くんと遭遇した。
 まあ同じ時間に同じ場所を目指しているのだろうからおかしな事はない。

「はっ、伏黒くん。今日からよろしく」

 何を隠そう、伏黒くんは今日から私の師匠なのである。

「おう。飯食ったか?」
「食べた!」
「半休だけで疲れ取れたか?」
「んー、正直あんまわからんけど、まあ、お昼まで寝てたしいっぱい寝た気はしてる。多分大丈夫や。知らんけど」
「ほんとに言うんだな、知らんけど、って」
「めっちゃ言うで、ことあるごとに言うで」

 "特殊ケースでも無いし、ほんとに基礎のキソの部分からだし、恵、教育係ついてあげなよ"

 なんて適当にも聞こえるあの軽薄な最強の発言のせいだ。お陰か?
 まあいきなり歳の離れた人間につきっきりになられるよりは同い年の子が着いた方が気兼ねなく教えを乞えるでしょ、という先生なりの配慮ではあるらしい。

 いや私気持ち的には先生のほうがよっぽど歳近いんやけどね????

 まあでもあの口ぶり的に、同時に伏黒くんの成長も期待している感じなんだろうし、甘んじて受け容れますけどね。
 人間的に五条さんより伏黒くんの系の人間の方が安心出来るのも確かにあるし。

 実際、私はまだ素人にすら慣れてない論外の人間である。最強に教わろうと天才とはいえまだ若い伸び代くんに教わろうと一緒なんよ。多分。知らんけど。

 というか私の成長度合い、私が誰よりも全く期待していない。だらかしょうみ誰でもいい。
 まああわよくば低級呪霊くらい祓えるようになれれば安心かなとは思うけど。なんかめちゃくちゃ呪霊に目を付けられる体質みたいだし今。
 なんかそれも今垂れ流しっぱなしの呪力をちゃんとセーブできるようになったら改善されるはずとかどうとか言われたけど、実際はどう転ぶか分からんしな。纏ってことやろ。できるかな私に。

 ……うわ月日って恐ろしい。あんだけがっつりハンターハンター読み込んでは夢女してたのにほとんど念能力のシステム忘れてもうてるわ。こわ……。あんなに散々新しい念能力考えてたのに……。

「ここだぞ」

 うっかり行き過ぎかけた。
 止まる気配なく進む私に、彼はそういって声を掛けた。
 扉を開けて、部屋に入る。
 中学の時とかにかろうじて入ったことがある、柔道場、とかそういうのに似ている気がした。
 なんか確か授業であったんじゃないかな、柔道。

「広い」
「広い方が投げたり飛ばしたりできるだろ」
「じゅ、柔道……?」
「いや人体をじゃねえよ」
「よ、よかった…!」

 まだそんなんは私には早いわ!?ってなった。

「ま、とりあえずは立ってる必要もねえし、適当に座るか」
「はーい」

 靴を脱いで畳に上がって、適当に座り込んであぐらをかいた伏黒くんの目の前に正座をする。

「これから説教でもされるみたいだな」

 かしこまったふりをして座る私を見て、彼は案の定そう言った。

「まあ、宗教指導者がする法話を説教と呼ぶこともありますので…」
「そんな大層なもんではねえけどな」
「いやいやめちゃくちゃ非現実的なことなんやからそれくらいの壮大さあるって」
「どうせすぐそんなこと思わなくなる」
「まあそれはそうかもやけどお」

 じゃあ始めるぞ。
 こほんと咳払いを一つして、師匠はそう区切りをつけた。
 はい、と私も真面目に返事をする。

 伏黒恵青年による呪術講座が始まった。


◆◇◆◇◆


「じゃあ、少し休憩」
「うぃっす」

 如何せん喉が渇いたぜ。
 飲み物買ってくるけど何かいる?
 そう声を掛けて立ち上がる。

「俺も行く」
「そ?」
「行菱迷いそうだし」
「まあ……いなめんね……」

 などと言いながら、肩を並べて歩く。青年、背結構高いよな。

「思ったよりは苦戦しなさそうだな」

 ふとそんなことを言うので、一瞬、自販への道のりの話かと思った。
 が、すぐに、呪術の方だということに気付く。

「あぁ……まぁ……言いたいことがなんとなくわかるっていうのが大きいんかなあ…」
「概念理解するほうが、感覚得るより大変そうだけどな」
「なんていうんやろうなあ……。元々オカルトオタクやからかなあ。関係なさそうやけど」

 いや理由なんてめちゃくちゃよくわかっている。
 今まで履修してきたあの漫画もこの漫画もあれもそれも大概異能力系って基礎部分のようなものはおんなじ感じな訳よ。ドラゴンボールから始まってる系譜な訳よ!(私が最初ドラゴンボールだっただけ)

 特に…そうね……夢女の私、の起源ともいえるジャンルが先述の通りハンターハンターですからね。
 トンデモエネルギーについては結構深堀しまくったからね。もはや哲学ともいえる域よ(大驕り野郎)

 あと一つでかいのが、多分私が異世界からトリップしてきた人間だってことね。
 得てして、トリッパーというのはその世界に順応しがちなものですしね。

「オカルトオタク?」
「某掲示板の怖い話とか児童文庫の怪談の本とか、陰謀論とかオーパーツとか読み漁ってるクチ」
「怖い話か。それは実際任務に出始めたら結構役に立つかもな」
「マジ?」
「結局呪いってのは人間の念が作りだすものだからな。そういう、人間の想像が至りやすいようなものは、実際、呪霊として多い傾向がある」
「あ〜〜〜なるほど、確かにな」

 特に恐怖なんて物は、実際何割の部分が妄想なんだって話やろうしね。
 不安とか懸念とか。そういうのも、いわば本人は”予想”のつもりの”妄想”みたいなところあるしな。

 そう考えると結構面白いな。呪術方面の統計学的な学問ってあるんだろうか。歴史分野にはあんまり興味ないけど現代傾向とかは調べてみたい……。

「お兄さん何飲むの〜」

 自販機に到着した。
 私の飲むものは速攻で決まった。こういうのはね、直感が大事。私直感と感覚派閥だから。

「コーヒー」
「奇遇ですねえ。どのコーヒー?」
「ブラック」
「はいよ」

 などと言いながら完全に小銭を入れる口の前を陣取られてしまっている。
 横を躱してやろうかと思ったが青年が先手を打った。
 かちゃん、と500円玉を食わせる音がした。

「あんたは」
「いいよお」
「いいから、早く押せ」
「ええ、ありがと…」

 年下は黙っておごられときなさいよ…と思ったけどそれって昭和の考えかたかな。
 私自慢じゃないけど歳の割に昭和の社畜の思想が根付きすぎてるからな。マジでそれだけには自信がある。

 ……ってまてよ。そもそも年下でもなかったわこの青年。ぼくたちおないどし。

「ん」

 ぺ、とボタンを押す。お言葉に甘えることにした。
 全然そうかどうかは知らんけど、初めて庇護対象ができてお兄さんぶる少年を見たときみたいな気持ちになって、ちょっと可愛く思えてしまった。
 がたん、と音がして、私のオーダー通り、微糖の缶コーヒーが出てくる。

「ありがたく、いただきます」
「おう」

 そして今度は青年がボタンを押す。
 ブラック。おつりのレバーを引く。

 おつりと缶コーヒーを回収して、私たちは柔道場(仮)に戻るため歩き出した。

「伏黒くんは疲れてないかい」

 飲み歩く、なんておぎょうぎの悪いことをしながら、私は問い掛けてみる。
 新人に教えるのって大変だからな。ほんっとに。しゃれならんのよ。

「疲れるほどのことはしてない」
「そう?ならええねんけど」
「行菱は?」
「疲れ?」
「そう」
「全然大丈夫。伏黒くんの教え方は私の肌にとても合ってる」
「ならいいんだが」

 彼は、多分、とても頭がいいんだと思う。学力とか成績の話ではなくてね。地頭、って奴。
 私は彼の成績の加減知らんからそっち方面の言及は控えるけども。

 頭の回転が速いとか、要領がいいとか、要所をかいつまむのがうまいとか。
 全部要はおんなじことなんかもしれんが。
 そういうのが確実にある上に、何より、何より私が助かっているのは、彼の言語化のうまさ、という部分。

 得てして天才というものは感覚型が多い印象があるが、彼はしっかり天才でありながら、その頭のよさ故か、文章的に説明をするのが非常に上手だ。

 小生、ポンコツマニュアル人間故、とりあえずマニュアル的、セオリー的なものを知りたいたちなんで本当に助かっている。
 実はあの一瞬でそんなことも見抜いて伏黒くんを師匠に充ててきたんだとしたらマジですごいけどな、五条先生。流石にそこまではないかな。偶然やと思っとくわ。じゃなかったらいよいよ怖いもん。

「言語ってのは複雑ですけどねえ、人間の特権なんよ。人間である以上、使えるなら使ってくれって思うわけ」
「ああ、まあ、言葉で説明が欲しいタイプと感覚派と別れるよな」
「そうそう」

 ああそうそうあとこういう感じね。わざわざ細かく前提から道筋伸ばして話さなくても、ぽっと適当にその瞬間思ったことを言ってもある程度理解してくれるところとかほんと頭の回転早いなって思う。
 昔から頭いい子好きなんよな。友達とかでも。そういう子とばっかりつるんできた気がするわ。

「伏黒くんが師匠でよかった。助かる」
「まだたいしたことも教えてねぇけど?」
「あうあわないって結構すぐわかるもんじゃない?」
「そういうもんか?」
「私だけかなあ。まあもちろん例外も多いけど」

 生理的に無理とか、一言目からお、こいつ苦手なタイプの脳みそしてるぞとか。逆にこの人は良さそうとか好きなタイプとか。
 ああでもこれは接客業の業かな。わからんわ。

「話していくうちに印象が変わることは当然の様にあるから、ゆっくりお話するのが1番やけどね。当たり前やけど」
「それはそうだろ」
「ッス」

 などと、他愛のない話をしているうちに柔道場に到着した。
 くいくいと部屋の端に二人で座り込んで、コーヒー休憩をし、しばらくして講義を再開することにした。

 流石に、「呪術」なんて呼ばれているものだけあって、オカオタ陰キャには肌馴染みがいいようなので、ちゃんと頑張ろうかと思います。
 術式に関しては分からんが、呪力操作的な面は今日中にマスターしてしまいたい。おおざっぱな部分の話ね。




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