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「今日は数世紀ぶりに前髪がいい感じ!」
毎朝巻いてスプレーで固めている。とはいえ。その日によってコンディションがまちまちなのだ。
毎日同じだけの長さをおんなじように巻いてるのにねえ。わけわからんまじで。
ちなみに、今日は言葉と裏腹にどちゃくそ調子が悪い。
もう何なら部屋でて五分後には気に食わなさ過ぎて固めたスプレーを全部崩してほどいてやった。
めちゃくちゃ直毛の体質なので、そんなことしたら折角つけたカールも十分でまっすぐに戻ってしまい、目にちょうどかかるうっとしいことになってしまうが、まあ、気に食わないものを携え続けるよりはいいだろう。
「そうか」
どうでもよさそう、というよりは無反応に近い様子で、言った相手、伏黒くんは返事をした。
まぁそりゃ、教室で何か書き物をしているところにおもむろに話しかけたわたしが悪いんですけどね。
こちらを一瞥もしないままそう返した癖に、彼はおもむろにこちらに手を伸ばす。
「ふふ」
椅子をぎーって引いて、わたしは座ったまま、その手を額で受け止めに行く。
「ん。」
ペンを持った手を止めないまま、彼は器用に、わし、とわたしの頭をなでる。
最近、ようやく、ワンさんたちをなでる手つきとわたしをなでる手付きに、違いが出てきた。気がする。いやうぬぼれかもしれんが。
「ふふふ」
その大きな手がうれしくて、わたしは媚びるようにその手にすり寄った。
する、と手が降りて、頬を包む。元々人の部位の中で特に手が好きだけど、すきなひとの手ってなったらそりゃあもう、すきだよね(語彙力)
慣れたように、親指で頬を撫でる。
ぺっ、と、筆をおいた音がした。
「なに」
瞳が、こちらを向く。
「甘えたかっただけ」
「あっそ」
かた、と小さく音を立てて、彼が体ごとこちらを向いた。
「こんだけで良い?」
「いじわるな言い方!」
言葉通りに意地の悪い顔をして、彼は肩を竦めてみせる。
「そっちの手も空いたんでしょ、ほら、ぎゅってしていいよ」
椅子から立ち上がって、彼の前に立ちはだかってみる。
しかたねえなあ、なんて言って、彼はしょうがなさそうなふりをしながら、わたしの背中に腕を回した。
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べたべたしたい。というだけ。