■ ■ ■



 さて、花のJKライフが始まり早2か月がたとうとしています。
 わたしも黄色も呪術師としてそれなりに形にはなってきていて、やっぱりまだまだ伏黒くんとか先輩たちにフィジカルでは全然敵わないけど、術式込みの対呪霊戦闘ならなるようになってきている。

 先生の思い描いていた計画通り、もうすっかり、一人で任務に出るようになった、そんなある日のこと。



「大変だはなー!!!!!」

 ばあん!!とクソでかい音を立てて、青が部屋に突撃してきた。
 おいだから服着てなかったら詰むんだから入る時はノックをしてくれとあれほど!

 なんて突っ込む余裕もなく。
 当然のように黄色を引きずった彼女は息を継ぐまもなくこういった。

「伏黒が瀕死でかえってきた!!!!」
「な、なんやてえ?!?!?!」


◆◇◆◇◆


「ふしぐろーーー!!しぬなーーーーー!!!」

 相変わらず頭の悪いことを言いながら、青はわたしの部屋と同じくクソでかい音を立てて扉を開けた。
 当然床に伏して?いるだろう彼は、不愉快そうにうなるだけで、いつもみたいな切れ気味の突っ込みはかえって来なかった。

「え……し、しんでる…?!」

 それにひるんだ青は、2、3歩後ずさってはわたしを押し出すように部屋の中へと追いやった。

「いや今うなってたから大丈夫やん。っていうかしょうこ先生が手当してくれとうってことは大丈夫やん」

 うるさくてごめんねの気持ちを込めつつ、わたしはそろりそろりとベッドに近づく。
 いやすまん、正直、寝てるとこ普通に他人に入られるのわたしやったらめっちゃいややねんけどな。ごめんな。でも心配なんは本間やで。なんて心の中で言い訳をしながら進むと、ついに爆睡をこく師匠を視認できる位置に至った。

「し、ししょ〜」
「なんで小声なんだよ起こす気あるのか!」

 理不尽なことを大声でわめきながら、青も続いて駆け寄ってきた。

「…お兄さん爆睡してはりますわ」
「ほんとだあ、これはまごうことなく寝てるね、爆睡だね生きてるわこれ」

 黄色は部屋の敷居をミジンコたりとも超えないまま、わたしたちの様子を伺っている。
 伏黒くんはすやすやと健やかに寝息を立てている。頭にやら手に包帯撒いとるわおっきいばんそうこう貼られとるわで確かに満身創痍だったようだが、まあ、生きてはいるので何よりである。

「わあ、集団夜這いだ」

 おひるだけど!
 わたしたちの(というか青の)騒ぐ声を聞きつけたのか、いつの間にやら黄色と同じような体制で部屋をのぞいては、五条先生が愉快そうに笑っていた。

「せんせえ!師匠どうしたんですか!」

 だっとわたしは先生に詰め寄った。めちゃくちゃ先生無傷じゃん!危ないことあったんなら先助けたれや!

「いや〜〜〜話すとながいよ?もう日が暮れちゃうよ?」
「いやそこは簡潔に話なさいよ」
「え〜〜〜難しいなあ……じゃあ、結論だけ」

 はい!
 まるでぽいと投げるかのように、先生は一人の男子をわたしたちに見えるように引っ張って持ってきた。

「?!」
「!?だれ!?」
「…あぁ、一年生最後の一人?」
「いや、元々決まっていたのは女の子。この子は別枠、急遽入学が決まったんだ。」
「あ、えーと、虎杖悠仁。言ってた、一年生の仲良し三姉妹?」
「そうそう!かしまし華やか三姉妹!」

 適当なことを言って、先生はけらけらと笑っている。おお、男の子増えた。師匠多少疎外感薄れるんじゃない?よかったね!(他人事)

「さあ一人ずつ挨拶しなさい」
「だからなんなの、そのお母さんムーブ」
「担任って親みたいなもんでs「はい!!あたし!!瑞鳥青!よろしく!!!」…反抗期…!?」

 張ったね〜〜〜〜めちゃくちゃ声張ったね〜〜〜〜全部かき消してやると言わんばかりだったね〜〜〜流石におもしろくてイタドリくん?も含めて、四人でどっと笑った。

「私は代々黄色」
「九条はなです〜よろしく」

 一遍にいっても覚えられないかもしれんな。まあ何度でも聞いてくれい。そんなことを思いながら自己紹介をしてみる。

「東京は美人多いってやっぱマジなんだな〜!」
「やだあ、褒めても何も出ないよー!」

 なんて、青はコミュ力高いので平然と打ち解けているようだった。

 そしてそんな彼等彼女等の所為かお陰か、背後でもう一度、伏黒くんが唸る気配があった。
 話の邪魔にならないように極力自然な動作で、再び勝手に部屋の中に戻る。

「ふしぐろくん。大丈夫?お水とかとる?」

 起き上がるのだけでもつらいかもしれないと思ってそう声をかければ、あぁ…、と声だけの肯定がかえってきて。続いて、掠れた声で、冷蔵庫、と指示を出した。

「冷蔵庫のやつね」

 わたしは指定通り、勝手に冷蔵庫を開けさせてもらうことにしてきんきんに冷えたお水のペットボトルを取った。開封済みのものはなさそうだったので、未開封だ。
 彼の元に戻ったわたしは、ぱきぱきとボトルのキャップを開ける。

「はい、お水。ふたあけたよ」

 そういって、お布団から出ている手に冷たいボトルを当てて見せると、彼はそれを受け取って、器用にベッドから頭だけを起こしてそれをのむ。
 こくこくと、喉が鳴る。
 男の人は、喉の動きがとても分かりやすいね。

「……っふぅ、」

 満足したらしいことを察して、わたしはボトルを受け取った。蓋をしめて、傍らに置く。

「……え?」
「うん?」
「…………?!」

 ぱち、と急に目があいた。そしてがばり、と、すごい勢いで起き上がった。

「い゛っ……!」
「そらお兄さんそんな大けがの風体で!安静にして!」
「いやいやいや!なんで!?」
「あっそう!ごめんね勝手にお邪魔しとるけども!!」
「!?!?」

 非常に混乱しているらしい。無害をアピールするためにわたしは両手を上げた。

「いつから…?!」
「さっき、さっきだよついさっき」
「そう…そうか…」
「わたしもされたら嫌だから申し訳ないと思ってんけどね……!師匠が瀕死でかえってきたって聞いたから……!」
「だれだそんなこと言ったやつ……」

 なんか知らんが納得?混乱は終わったらしい彼は、再び寝起きみたいな声で大体予想でもついてるみたいに言った。

「あ!恵起きた〜?お隣さん連れてきたよ〜〜!」

 ぶんぶんと手を振りながら、先生も部屋に入ってきた。

「不法侵入ですよ、プライベート空間なんですけど」
「そんなのカギかけてなかった恵が悪いじゃん」
「こちとらくたくただったんすよ!」

 ったく、と相変わらずの半切れでガシガシと頭をかきながら、ようやく彼はベッドから足を下ろした。
 大丈夫?と声をかけるが、存外彼は頑丈なのか傷が浅かったのか、しっかりとした足取りだった。
 まあ、しょうこ先生の治療を受けてるっていうんだから、あとは疲労さえ回復すればほとんど大丈夫なんだろうけれども。

「っつーかなに、隣人?」
「そう、隣人新人の虎杖くんで〜す!」
「おっす伏黒!今度こそ元気そうだな!」
「なんでわざわざ隣の部屋……」
「だってにぎやかな方がいいでしょ?」
「いや三姉妹でことたりてんすけど」
「あれ待って、結構その呼び名浸透しとる感じなんやな?!」

「あ」

 と、おもむろに先生が手を打った。忘れていた、と付け足して。

 ばりばりと包帯やらばんそうこうやらをはいで行く伏黒くんを手伝いながら、わたしはそんな先生に目を向ける。ほかの人も、はたと彼を見ているようだった。

「明日はお出かけだよ!最後の一年生を迎えに行こう!」
「は!ついに!」
「ついにこの日がくるんやな!」
「いじめちゃだめだからね〜〜〜」
「んなまさか!精々いじめられる側だわ!」


◆◇◆◇◆


 さてそんなわけであくる日。
 引率の伏黒せんせえに連れられてわたしたち一行は原宿駅に集合しました。
 五条先生はまだ来ていません。大方多忙な人なので朝からなんかやましいことの一つや二つ済ませているのでしょう。

「あ、先生きたー」

 ゆるく、青が声をだした。
 おせーぞーなんて茶化して言えば、焦る様子も急ぐ様子もなく、駅から悠長に先生は歩いてやってきた。

「お待たせー」
「待ったー」
「お、悠仁制服間に合ったんだねー」
「おーぴったし。」

 などとわいわい会話しながら、真っ黒学ラン集団は目的地に向かって歩き出す。

 しばらく歩いていると、遠巻きに、同じような制服を着た美人が見えてくる。
 うちの制服わかりやすいな……学ランだからそらそうなんだが、如何せん真っ黒すぎるんよなあ……。

 何やらやからのようなおねーちゃんで、待ちゆくひとにやくざばりの絡み方をしていたので一瞬声をかけるのを戸惑いはしたものの、せんせえが声をかけて、それをおねーちゃんがこちらに気が付いてくれて、無事に合流を果たした。

「そんじゃ改めて。」

 けふん、と咳払いをして、美人は仁王立ちをする。背が高いっていいね!様になる。

「釘崎野薔薇。喜べ男子、清楚美人よ!」
「セイソ……?」

 失礼な声を出したのは虎杖くんである。いや確かにつっこみまちかなとは思ったけれども!その返答は失礼!
 あ、というかこれもしやわたしらのこと若干ケバイと認識してる…?!そんなことないよ…?!質素質素…!

「俺虎杖悠仁。仙台から」

 いやおまえ仙台やったんかーい知らんやったわ!

「伏黒恵。」
「瑞鳥青!よろしく!出身はねえ、埼玉!」
「大代黄色よ。長野から。よろしくね?」

 おや黄色さん過去一声音が優しいゾ!やっぱり初対面男って彼女にとって最警戒対象なんだなあ。

「九条はな。大阪の端っこから。よろしく」

 言い終えたわたしたちを、釘崎さんはじっとまんべんなくにらむように眺めた。うむ、見るからに気の強そうな人だな。マジでいじめられる側ですってこれ。

「女子はいいとして……ほんと私ってつくづく環境に恵まれないのね」

 クソでかため息をついて、最後にもう一度、彼女は男性陣の方をひとにらみした。まぁ………なんというか、そういうやつに関しては…ドンマイとしかいえぬ。要は好みの人がいなかったんだね。どんまい。あれかな、体育会系もクール系もダメってことは狗巻さんみたいな可愛い系がタイプなんかな。そうだとするとちょっと意外。

 さてそのあと、なんやかんやで大騒ぎした後、とある廃ビルに到着いたしました。
 あれやな、のばらちゃん結構勢いいいし虎杖くん青タイプだしおもろいな。よりいっそ盛り上がり度が高まったわ(訳:うるささに拍車がかかった)。

「…いるな、呪霊」
「なんだ。任務なら任務でそう言ってくれればいいのに」

 肩を竦めて黄色が言った。そうだぞー。っていうかこんなに人数必要ってどんだけなんだ大丈夫なのかそれは。

「じゃあいつもの班分け〜〜〜〜!」

 はあい!と元気にせんせえが手を挙げた。つられてわたしや青、虎杖くんが手を上げる。

「というか今回は!主目的はこのビルの呪霊を悠仁と野薔薇に祓ってきてもらうこと!」
「?!」
「ちなみに暇すぎて死んじゃうだろう君たちのためにもう一件近隣の任務をもってきています!さあ4月組は好きなように選びなさい!」

 先生は相変わらず元気である。

「あちなみに欲を言えば同じ少数派の男子として恵には残っていてもらいたいかな」
「あぁ、じゃあ」

 そういって、わたしたちは頷いた。それならどこがどうなるかはもはや決まっている。

「じゃああたしらが任務いこっかー」
「なんだか無駄な労働な気がするわね……」
「あはは、まあいいじゃん、暇を持て余すよりは確かに気楽だよ〜?」
「まあ最近は一人行動も増えたし、たまにはいいわね」

 はい地図ー!と言って元気に先生に紙を渡された二人はのんびりとした動作でそれを眺めた。
 ちなみにのばらちゃんと虎杖くんもビルに向けて出発していた。

「じゃあ、恵とはなはここで先生と観戦会ねー」

 おもむろにそこにしゃがみこんだ先生に倣ってわたしも座ることにした。

「はな、パンツ見えちゃうよ」
「大丈夫ですよ、ほら。心得てますもう3年もはいたんだから」
「まあそれはそうか先生が本当に見えてないか確かめてあげよう」
「セクハラですよ、それ」
「っていうか何なら痴漢ですよね」
「熱い手のひら返し!!!!」

 さてそんなわけで適当に先生や伏黒くんと会話をしながら、なんとなくビルを眺めている。わたしは時折目を上げる程度で、他は大体スマホでゲームをしている。
 というかね、あのね、先生は千里眼的ななにかでビルの中のことまで見えるのかもしれないけどね、常人には見えないのよ。なんにも。呪力の揺らぎくらいしか。

 こう、意識集中させれば、野薔薇ちゃんがどこにいるかとかどうしてるかとかくらいはわかるかもしれんけど、それやるとめちゃくちゃ疲れそうだし、却下であります。

「は、せんせい」
「はいなんでしょうはなさん」
「わたし、伏黒くんの瀕死のいきさつも虎杖くん爆誕したいきさつも知りたいんですが」
「あぁ、そうだ説明してなかったね」

 そういって、暇つぶしがてら、先生はこの間起こっていたことをゆるく語ってくれた。
 要は、特級呪物を回収するだけの任務に伏黒くんは向かっていて、でもその目標物の封印がうっかりはがされてしまって大惨事になって、虎杖くんのご友人を助けるためにえらい強力な呪霊までよってきちゃってたけど奮闘してたら、なんか色々あってその特級呪物を虎杖くんがダイナミックイタダキマスしてしまいこともあろうにそれを許容してしまったらしい。で、その頃到着した先生がその後のこともろもろは納めてかえって来た、と。なんかうん、わたしらがのうのうとグラウンドで訓練してる間にとんでもねえことが起こっとるな。


「両面宿儺って……めちゃくちゃ有名なやつやん……そんなん実在しとったんやな……」
「有名?」
「ネットの怖い話、とかで。コトリバコとかパンドラとかリョウメンスクナって言ったら三大巨頭オみたいな感じよ」
「まぁ、あれだけの呪物ならば、話に残っていてもおかしくはない。しかもそれは、20に分かれてバラバラに存在しているのだから」
「うわあ…なんつーロマン」
「はなはそういう俗っぽい系統の怪談に強いよね」
「元々普通にオカルトオタクなもんで」
「いいんじゃない。現代、情報量がものをいうからね。基本的には呪いというのはシステムを理解しないと詰むことが多い。その辺の話に詳しいってことはきっといつか役に立つと思うよ」
「珍しく先生が真面目な話してるじゃないですか〜」
「真面目にとは失礼な!」
「あ、失礼ポイントそこなんや?」

 などとのんびり過ごして、しばらく。
 先に帰ってきたのは青たちだった。お疲れーとひとしきり労えば、野薔薇ちゃんたちも戻ってきた。

 何やら子供を抱えていたので、先生と青が送り届けることになった。
 そしてそのあとは先生のおごりで晩御飯である。寿司やらビフテキやらでもめていたが、結局焼肉で落ち着いた。食べ盛りですからね、わたしたち!




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