■ ■ ■



「はじめまして」

 いつも通り特に労力もかけず愛想笑いで声を吐く。

 4月1日。
 中学を卒業したわたしは、今日から親元を離れて、この東京都立呪術高等専門学校の生徒となる。


「選択肢は二つある。」

 わたしが、術師になりたいと言ったその日、母は長いこと、おばあちゃんと電話をした。
 そして、その次の日、学校から帰ると、母は唐突に言った。

「呪術師になるための学校…というと語弊があるけれど、その界隈に足を踏み入れるために一番手っ取り早いのが、その専門機関たる高等専門学校に入学すること」
「成程」
「で、それは京都と東京にある。当然近いのは京都…ただ、どちらに入るにしても寮生活をすることには変わりないね。かえってくるのが容易だということを考えると京都でもいいかとは思うんだけど、如何せん、関西圏では”うち”の力はあまり及ばない」
「待ってなんかすごい貴族みたいなこというやんおかん」
「でも語弊ないんだもん。東京の方に行くのが、はなちゃん的につらくないのであれば、その方が、圧倒的に安全は保障されていると、思う」
「マジ?」
「マジ。こう見えておばあちゃんたち名家だからね」
「金持ちの雰囲気かけらもないけど」
「それとこれとは別でしょ。あの世界ではいかに呪力が強いかがものをいう。当然、界隈でそれを使って儲けようとすれば巨万の富を得ることも可能ではあるだろうけど、あのおじいちゃんとおばあちゃんだよ?そんなの興味あると思う?」
「いや〜〜〜〜納得が過ぎた。それはそう。あの人らないもんなそういうん」
「そうなのよ。まあだからママのこういう勝手な行いもちょっと見逃されているところがあるわけだけど」
「あの親にしてこの子ありってことやな……」
「まあそういうことね。でもそう。呪力的にすごいのは本当なのよ。血脈によって決まるところが大きいけれど、技術力を磨くのは紛れもなく努力とセンスでしかできない」
「成程……」
「だから、向こうでは結構発言力のある一族として認識されている。多少なりとも、はなちゃんを守ることはできるはず。」
「昨日一晩中話してたんはそれ?」
「そう。どこをどうしてとかこれをこうして、ダレをああして…って。おばあちゃん、まだ全然耄碌する気はないみたい」
「そりゃあ、あの健康オタク加減やからなあ」
「ほんとにね。日々のボケ防止活動が功を奏してるよ」
「ほんとそうね」
「じゃあ、東京校の方でいいね?」
「うん。どうせママさみしくてすぐ会いに来るんやろ?」
「よくわかったね。そうだよ、どうせはなちゃんは面倒臭がって来てくれないの見えてるからね!そんなん京都でも一緒よ」
「あはは、それはそやろなあ!」

 なんてそんなご都合主義かよとでも言いたくなるような暴露をされつつ、貴種流離譚とでも言わんばかりの勢いでわたしの進学先は決まった。

 流石に、初めての受験たる高校受験を控えて神経を逆立てている、今までさんざん人をいじめてきて内申点だなんだっていうので焦っているいじめっこたちを見ているのは気分が非常によろしかったり、みんなが必死こいて勉強している中わたしはまあ本当はしなくていいんだけどなっていう心の余裕がある状況だったりは非常に良かったわけだけど、まあ当然、わたしの性格上、そんなのおくびにも出さなかったんですけどね。

 適当に今の学力で行ける近いとこ目指すよ〜〜〜〜とか言いながらさも近所の高校を受けるふりをして受験勉強しているふりをしながら、架空の受験への不安を友達たちと愚痴り合い、中学の最後の一年は過ごしたわけ。


「はじめまして!あたし、瑞鳥青!よろしくね!」
「大代黄色よ。よろしく」

 そういって、二人の女子生徒は返事を返してくれた。
 快活そうなショートカットの女の子と、おっとりした空気感のややくせ毛の雰囲気があるロングの女の子だった。

「二人とも呼び捨てで呼んでね〜〜数少ない同学年なんだから!」

 そういって笑うのは、瑞鳥ちゃんの方だった。

「じゃあ、お言葉に甘えて。あお、って呼ばせてもらおうかな」
「そうしてそうして!」
「わたしのことも呼び捨てで呼んでな〜」
「あ!はなはこの辺出身じゃないんだね?」
「うん、関西やねん」
「そうなんだ!関西弁ってかわいいよね!」
「いやいや、そんなことないやろ〜」
「ええ、可愛いよ!ね!大代ちゃん!」
「あら水臭いのね、私のことも呼び捨てで呼んでほしいわ?」
「あ、そうだね!じゃあ黄色!」
「ふふ。そうね、関西弁、可愛いと思うわ?」
「や、やめて〜〜二人して。照れるわあ?」
「可愛いわね。」

 などと女子高生らしくキャッキャとアイスブレイクをした。
 話しやすそうな子たちでよかった。
 黄色とか金髪ゴリゴリだし世に言うギャルで陰キャはみんな悪と思ってるタイプだったらどうしようかと思った。青も気、強そうやしなあ。

「うん、仲良くやっていけそうだね」

 ぱん、と軽く手をたたいて言ったのは、五条先生、というわたしら一年生を受け持つ男の先生だった。
 何やら分厚そうな目隠しをしているし特殊な人であることは間違いないのだろうけれど、少なくとも今のところの印象で言うと軽薄で適当ばっかりいう脊髄でボケるタイプのお兄さんだった。

 ちなみに、今日今この場(ガラガラの教室)にいるのは私たち四人だけだった。
 本当はあと二人、一年生がいるらしいのだけれど、一人はあと2、3か月後に状況してくるらしいし、もう一人はもう随分とこの界隈に慣れている人らしくて、既に任務をこなしに行っているらしいのだ。

「あっ、ちなみにわたしマジで呪術師としてド素人やから、二人とも色々教えてな?」
「もちろん!」

 快活に答えてくれたのは、青だった。

「あら、仲間ね」

 穏やかに微笑んだのは、黄色だった。

「そうだね。君たち二人は、まず”術師”になるところからだ。とはいえ、青も”術師”としての世界に足を踏み込んだのは今日だしね。3人とも、徐々に慣れていけばいいよ。」
「そうだね〜〜」
「青はすでに呪術は使いこなせるの?」
「ん〜〜定義の難しいところだから簡単に肯定しづらいけど、まぁ、あたしはあたしの技術があるから、それに関しては玄人だよ」
「くろうと!」
「二人は?呪力とかはもう自然に操作できる?」
「ん〜〜〜一応やり方はわかったけどって程度やな〜〜」
「私もそれくらいね。世に言う術式、というものがまだ確立できていないの」
「あーね?赤は?術式はもうもってる?」
「一応の一応な〜〜〜〜使うのも必死やけど」
「でもすごいじゃん!術式把握してたら十分だよ」
「でもここはそんな人らばっかがおるんやろ?」
「まぁそれはそうだけどさ!」

 そうして一通り親睦を深めて、そののち学内を見学。みんなでお昼ご飯。学校の色々な人に会いに行ったりして過ごして、気付けば夕方になっていた。

 そのタイミングで、もう一人の一年生がかえって来たらしい、と五条先生が言うのでぞろぞろと会いに行くこととなる。

「これから会う子はね〜今年唯一の男子だからね〜いじめないであげてね?」

 愉快そうに先生は笑っている。人を食ったような、って感じの人だ。まさに。

「まさか!いじめは流石にしないよもう高校生だよ?」

 同じように青がけらけらと笑っていた。
 なるほど、男女比1:4。中々過ごしやすいかもしれぬな。

「お、いたいた。恵〜〜〜」

 黒い頭を見つけて、五条先生が元気に手を振る。
 ほんと、わたしらよりよっぽどわんぱくな少年の様だ。
 そんな先生の声を認識して、うんざりしたように、”彼”は振り返る。

「なんですか、初日から人のことこき使っておいて……」

 はたり、と言葉を止める、同級生。
 黒髪細身の、相応に私たちより背の高い、なりたてほやほやの男子高校生だった。

「君の同級生を連れてきたよ!ほらあいさつしなさい」

 お母さんのようなことを嘘くさい口調で言って、先生は彼の背中をばしばし叩いた。

「いた…っちょ、うざいんでやめてください」

 バッサリとそういって、彼は先生の手をはたき落とす。

「瑞鳥青だよ!よろしく」
「大代黄色」

 圧をかけるが如く(?)、いや青にそんな意図はないだろうけど、そう彼女は先制攻撃を仕掛けた。

「あぁ…伏黒恵だ」

 彼はそう名乗って、そしてわたしに視線をやった。

「よろしく、伏黒くん。わたしは九条はな」
「よろしく」

 納得がいったらしい彼は、わたしが言い切ると、そういって頷いた。

「うん、仲良くなれそうだね!」
「どこをどう見てそう思ったんですか」
「うん?なーいしょっ」

 いたくご機嫌な様子の先生に、伏黒くんは隠すこともなくため息を吐いた。
 まぁでも、まだ敬語も使えてるし、敬意はある部類なんじゃないかな。青とか黄色とか全く使う気ないみたいだし。

 そんなこんなで、私の高校生活が幕を開けた。
 入学式なんてものはなかったけど、まぁ特殊な学校なんだし、それはそれで、そんなもんか、と三人揃って勝手に納得をしていた。





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