かたみ月


 街燈の灯りもまだ乏しい中、行く手が思いのほか明るく感じられ、菜花が空を見上げると、広告看板の片隅に白い満月が皓々と浮かんでいた。
「ああ、今日は十五夜か」
 菜花の傍らで摩緒が静かにつぶやく。月明かりに照らされ凛と冴え渡る横顔を、黒白入り交じる髪の毛のそよぎを、満月よりもまぶしいように彼女が手庇の下で見つめていると、
「十三夜を祝っていないだろう? 片見月は縁起が悪いんだよ。おまえに悪いことが起きなければいいが」
 至って真面目な顔をして、身も蓋もないことを言う。余計な一言で乙女心に水を差されたことを恨む菜花は、肘先で彼の脇腹を思いきり小突いた。
「あっ、痛いじゃないか──」
 理不尽な仕打ちに瞠目しながら、摩緒はそのふてくされ顔を見下ろした。


20.10.01(十五夜)
Boule de Neige

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