"Night with his train of stars"




 昔、この街に、ひとりの竜の若者が住んでいました。
 若者には、遠く離れて暮らす想い人がおりました。その人を片時も忘れたことはありません。かつて幼いその人を背に乗せ、空を飛んだ夜を思い出しては、一目また会いたいという願いに、若者は日々胸を焦がすのでした。
 やがて、若者の純粋にして切実な願いが、天に届いたのでしょうか。閉ざされた道はふたたび通じ、想い人が時折この街へ訪ねてくるようになりました。
 この街の掟により、外の住人である想い人は、日没までに自分の世界へ帰らねばなりません。──けれども一年のうちにたった一日、空に天の川が流れる夜にのみ、若者は想い人の手を離さずにいることを許されたのです。
 おそらくその夜には、普段は厳然と隔てられて交わることのないふたつの世界が、同じ空を分かち合うのだろう、──と若者は考えていたようでした。そうなのです、あの竜の若者は、賢明な魔女の弟子でありながら、どこか夢見がちで理想主義な一面を持ち合わせていたのでした。
 ──うん? それでそのふたりはどうなったのか、だって?
 まったく、この子は。ちゃんと話して聞かせるから、そこで大人しくお聞きよ。
 もちろんふたりは逢瀬を重ねたさ。おかげで若者の想い人は、たくさんの子を生み落としたよ。両親譲りの、星のような目をした子ども達だったねえ。
 あの若者はガールフレンドと七人の子ども達を背に乗せて、嬉しそうに夜空を飛んでいたっけね。毎年飽きもせず、天の川を見に行くと言って──
 ──なんだい? どこかで、聞いたような気がする話だって?
 そうだねえ。もちろん、あんたも憶えているはずさ。
 これは、遠い昔の、すぐ近くにあるおとぎ話。
 星の子たちが語り継いできた物語なんだ。
 あんたが忘れるはずが、ないんだからね。



19.07.07

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