若立ち

 気楽にしてね、と言われ、ますます身の置き所がないように感じられる。琥珀はまるで主人に仕える侍従のように畏まって、囲炉裏のそばに正座した。傍らに座るかごめが彼の顔をみて、申し訳なさげに眉を下げた。
「ごめんね。留守番、私しかいなくて」
「……あ。い、いえ! そんな、とんでもないです。姉上たちが留守なのに、急に帰ってきたおれが悪いんです」
 慌てて頭を下げる。姉一家は今日は出先から戻らないという。ならばすぐに発とうと思う琥珀だったが、産み月を迎え村に残っていたかごめに引き留められたのだった。
「珊瑚ちゃん、琥珀くんがそろそろ帰ってくるんじゃないかって、楽しみに待ってたのよ。今回は間が悪かったみたいだけど、次は会えるといいね」
「そうですね、あはは……」
 ぎこちない相槌を打ちながらも琥珀は心の奥底で、姉と顔を合わせずに済んだことに安堵している自分に気づき、自己嫌悪に駆られている。
「──珊瑚ちゃんに、あまり会いたくない?」
 だからその本心をかごめに見透かされた時、琥珀は咄嗟に言い繕うことができなかった。薄情者と思われるのではないか、不安が胸中に立ち込める。けれどかごめの眼差しは咎めるようなものではなく、あくまで温かな思いやりに満ちている。それが頑なな琥珀の心を、少しばかり開かせた。
「姉上には……負い目がありますから。姉上が気にするなと言っても、おれは、やっぱり──」
 膝の上で握り締めた拳が震えていた。それを情けなく思っていると、ふとかごめの手が伸びてきて、彼の拳を繭のように包み込んだ。琥珀は驚いて顔を上げた。かごめの慈しむような顔がそこにあった。
「お姉ちゃんっていうのはね。弟のことが、可愛くて可愛くて、仕方がないのよ」
「……かごめさま」
「だから珊瑚ちゃんは、きっと琥珀くんのこと、ずっと待っていてくれるからね。──琥珀くんが、いつか心から珊瑚ちゃんと向き合ってくれるまで」
 琥珀は唇をかんで俯いた。かごめにそっと抱き締められた時、心のわだかまりがつかの間ほどけたような気がした。拳の震えは嘘のように収まっていた。かごめの膝に取りすがり、少年は静かに涙をこぼした。



19.04.20



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