忍び寄る影の足音  



 




「ごめん、わざわざ付き合わせちゃって」

「いや!別に大丈夫だよ!」

「…奈々さん急用入っちゃって残念だね」


結局ツナと二人で買出しになった。奈々さんは急用が入ったらしく、お金だけ渡されたけど果たして5万円も居るのだろうか。隣を歩くツナは、にこにこしながらある家を眺めていた。

「どうした」

「え!?な、なにが!?」

「あの家に何かあるのか?」


どこにでもあるような家だし、特に惹かれる要素なんて無いと思うけど。顔を赤くして首を振るツナが不思議で首をかしげた。暑いのだろうか。

「あ!ツナくんだ、おはよう!」

「きょ、京子ちゃん…!?」


「(京子ちゃん?)」

ツナがずっと眺めていた家の窓から、茶色いふんわりとした髪の女の子が手を振ってきてツナが更に顔を赤くさせる。…なるほどね。ふと手を止めたその子の視線はツナから離れ、私に向く。

「あれ?ツナくんのお友達?」

「え?あ、それは…!(どうしよう!完璧に勘違いされるーーー!!)」

「初めまして。ツナの親戚の#namr2#麻哉です」

「親戚の子なんだ!こちらこそ初めまして、笹川京子です」


ちょっと待っててね、と窓際から去った京子ちゃんが数秒ほどで玄関から出てきた。
近くで見れば見るほど可愛い。ふわふわした容姿がいかにも女の子といった感じで、ツナが惚れるのも頷けた。


「麻哉ちゃんでいいかな?」

「…うん」

「私の事は京子でいいよ」

「あり、がとう」

にっこりと天使のような笑顔に顔が熱を持った気がした。女の私でさえ好きになってしまいそうな雰囲気と優しげな声に、心臓が高鳴る。

「これからどこに行くの?」

「買出しに」

「そうなんだ!頑張って!」

「う、うん」

花畑でも広がるようなオーラにツナは目を合わせられず、視線が宙を彷徨っている。

「あ、そろそろお昼だから戻るね!また話そうね麻哉ちゃん!ツナくん!」


パタパタと走り去る京子ちゃんの後姿を、ぼうっと間の抜けた表情で見つめるツナを小突いてやる。ビクリと跳ねた肩に内心分かり易すぎやしないかと呆れ、核心を突いた言葉を放った。

「可愛い子だな。好きでしょ」

ツナの顔が蛸みたいに赤くなった。…あれからずっと黙りこくったツナは落ち着かない様子でキョロキョロしている。もう答えなんて聞かなくたって分かるけど、そんな行動が見ていて面白い。偶に京子ちゃんって可愛いよね。とか名前を出すとまた顔が赤くなって反応する。

「つ、着いたよ」

「…大きい」

でかでかと並盛ホームセンターと書かれた看板に、出入りする大量の人。賑わう入り口を抜ければ、広い店内が広がった。すごい。

「ベッドって何階に売ってるのだろうか」

「多分三階に…」

「それじゃあ行ってくるよ。適当に休んでて、疲れたでしょ」

正面に向き直りエスカレーターを見つけて走る。無駄に広い店内は下手したら迷いそうだな、とか考えて長いエスカレーターをゆっくりと上っていく。あちらこちらで駆け回る子供が微笑ましい。


「(……多いな)」

三階の半分は様々なベッドで埋め尽くされていて、圧倒。ここから探し出せというのか。今更ながら付いて来て貰えば良かったと頭を過ぎるが、迷惑はかけられないし掛けたくない。合間合間を縫うように小さめの、出来れば安いベッドを探して歩いた。

「(あ、これなら安い)」

向かったセールの場所には、高すぎずに大きくも無い黒いベッドが置いてあった。値段は10000円と少し。デザインもシンプルで幅も取らないから一瞬で迷う事無く決めた。掛かった時間は入店から10分程度。店員さんを見つけ、購入したいと声を掛けたらレジまで案内してくれたので御礼と共に頭を下げる。手続きを済ませてメモした沢田家の住所を書いたら、およその発送日時を聞いてお金を支払う。ベッドにしては安いけれど、値段としては高いので帰ったらもう一度お礼を言おう。


「ありがとうございました」

レシートを受け取り、エスカレーターを目指したが生憎レジが遠かった為場所が分からない。…どうしよう、これは完全に迷子というやつではないか。エスカレーターがどこにあるかを尋ねる勇気なんてない。店員さんの邪魔になる。仕方無しに辺りを見回しながら歩いていたら、後ろから声を掛けられた。


「エスカレーターならあちらですよ」

「え、…あ、ありがとうございます」

「クフフ。ここに来たのは初めてですか?」

こくりと一度頷けば無理もありませんね、と柔らかい笑顔で言われて顔が赤くなる。この歳にもなって迷子だ何て情けない。今ばかりは幼くなった容姿に感謝をした。

「道中気をつけてくださいね。物騒な世の中ですから」

「はい。貴方もどうか気をつけてください」


満足そうに笑った少年にお辞儀をして、エスカレーターに今度こそ向かった。いい人だったな。一階に着くと、私に気付いたツナが木製のベンチから立って駆け寄ってきた。

「すまない、遅れて」

「大丈夫、付いて行くべきだったよね!オレこそごめん!」

「親切な人に教えて貰ったし、付き合ってくれてるのはツナだから。謝らないで」

「…うん、それじゃあ帰ろっか」

「お昼の支度しないとだからね」


今日のお昼何がいい?何でもいいよ。じゃあ何が好きなの。えっと、カレー…?なんで疑問系。他愛無い会話をしながら帰路を歩く。途中ツナが視界から消えたかと思ったら何も無い歩道で転んでいたのだから驚いた。手を出してやったら恥ずかしそうに笑いながら掴んで、よいしょ。と立ち上がる。

「だからダメツナとか言われるんだよな〜」

「別にダメではないと思うけど」

「だってテストもいつも平均点以下だし、オレが入ったチームはいつも負けるし。
今みたいに何も無いところでも転ぶしさ」


ダメダメじゃん、と苦笑いするツナ。そんな中学生沢山居るわけだし、私の中学にも同じような人は居た。別に悲観することないんじゃない。ツナは笑った。

「そうかな」

「そうだ。友達だって居るじゃないか、京子ちゃんとか」

「な…!京子ちゃんは関係ないだろ!」

「また赤いけど」

「からかうなー!!」


真っ赤になって怒るツナが面白くて、更にからかうと恥で死にそうになっていた。
口元に手を当てても自分は笑っていない。心では楽しいと感じても表情に出せないのは、やはり信頼できないからなのだろうか。未だに傷つく事を恐れるトラウマが憎い。前方に沢田家が見えてきたところで、ツナが声を上げた。



「獄寺君、山本!」


「10代目!」

「ははっ、来たぜツナ!」


ツナの姿と声を聞くなり駆け寄ってきたのは銀色の髪の少年と、爽やかそうな少年。友達が多いんだな。なんて客観視しながら二人を見ていたら、銀髪さんが私に視線をずらした。デジャヴ。

「10代目、誰っすかその女」

「あ、麻哉っていうんだけど…」

「…どうも」

「ツナの友達か?よ!オレ山本武!」

「なにフレンドリーに接してやがる野球バカ!」

「別にいいじゃねえか!オレも麻哉って呼んでもいい?オレのことも好きに呼んでくれよ!」

「じゃあ山本で」

「ケッ。10代目、こいつ何者なんですか?」

「えっと…昨日からオレん家に居候してて、」

「なっ…!おいそこの無表情女!10代目のお宅に住み着くなんて何考えてんだ!」

「ちょ、止めてよ獄寺君!」

「そうだぜ獄寺、困ってんじゃねーか!」

「うるせえ!表に出ろ!」

「ここ表だけど」

「揚げ足とってんじゃねえ!!」


………何だ、この人は。ツナに視線を向けると困ったように方を下げた。お手上げってことですか。






忍び寄る影の足音
10代目!オレがお守りします!本当に止めてよ



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