家に着いたらほおをおもい切りビンタされた。平手打ちだ、じんじんする。
悪いのはあたし、謝れ。謝れ。そう復唱しても発言権を得たのはなんとも醜い怒りであって、
「はは、愉しい?なんならもっと殴れば?むかつくんでしょ、あたしが」
母さんはだまった。目にうっすらと浮かぶ泪に罪悪感がぽつりとうかびかけたところで奥から父さんが出てきた。
さっきとは比べものにならない鈍い鉛のような痛みと衝撃に、足がささえきれなくなって倒れこむ。
「おまえは、父さんと母さんの気持ちを考えたことあるのか!!一人ででかくなったみたいな顔しやがって」
「なにいってんの?じゃあ聞くけどあたしの気持ち考えたことある?
ていうかほぼあたし一人でおっきくなったようなもんだし。どっかの誰かがキャバクラなんて通い詰めて父親面してんのが馬鹿らしくてしょうが…」
髪をつかまれて今度はホンキでなぐられた。
これ顔変形するんじゃない、なんて考えたつぎには泪がながれた。さすがに母さんもやりすぎだと止めたけど、そんな様子も聞かないで黒ずんだ唇をひらく。
「おまえはもう父さんの子じゃない。出て行け、この家にいる権利は無い」
「あなた!」
「いいよいっそすっきりするわ。携帯も置いてくから、どうせ解約すんでしょ?
それじゃー今までお世話になりました」
ぺこりとお辞儀をしてバッグと財布を持って家をでた。
最後の顔はなんとも間抜けで滑稽、案外親子の絆なんてあっけのないものだ。
「…持ち金、二万かぁ」
一応高校生だしバイトなら出来るけど、この辺でしてたらすぐにバレるだろうし。ならこのお金を半分使ってできるだけ遠くに行こう。
折り畳み傘を開いて駅を目指す。ぴしゃぴしゃと跳ねる水溜りに映る顔はそれはそれは悲惨なもので苛立ちが募る。
「この深夜にそんな顔でどこへ行く」
「あはは、さっきのお兄さんじゃん。ねえ良かったらあたしを駅に送らせてあげるよ」
「なんだそれは。どこに行くと聞いている」
「家追い出されちゃったからさ、どっか遠くに行こうとおもって」
もう顔みたくないし。
感傷にひたろうにも思い出がないんだ、どう後悔しろと。金髪の美青年は一瞬面をくらってすぐに笑い出した。
「憎んでいた親に捨てられたか、ふはははは!!」
「だってあたし悪いコだし」
「ほう。どこが貴様の言う"悪い子"とやらの基準なのだ」
「言う事きかないし、口ごたえするし、」
「そんなもの当然であろう。貴様にも意思というものはある」
なにが悪いと言わんばかりにそう投げ捨てた美青年は一瞬考える仕草をしたのちに、
「行くあてがないのなら、我の元にくだれ」
そう自信気にわらった。