両親と喧嘩した。
別にこれといって珍しいわけでもなく、よくあることでもはや日常茶飯事なできごとである。ただ今日はいつもよりもむかついて家を飛び出すというオプションがついた。だけ。
「…ついてない」
ざあざあと降り出した雨に溜息がひとつ。なんでよりのよって今降り出すんだよ、信じられない。なんて愚痴を言っても雨はやまないから終了。近くの閉じた店で雨宿りしながらなんていい訳したらいいものかと考える。素直に謝る気は、無い。
「(あたしは悪くないし)」
悪いのは怒鳴り散らす父さんと、その味方をする母さんだ。気に食わない。あの家があたしはだいきらいだ。家族なんてうっとうしいだけ、といったら片親のみつこちゃんに頬を叩かれたっけ。一向にやみそうに無い雨に舌打ちをして咄嗟に持ち出した携帯をにぎりしめる。
しつこい。
茶色く染め上げられたか髪はコテで巻かれて、目を大きくみせたくてつけているつけまには水が付着して気持ちが悪い。いつからこんなコになったんだろ、あたし。ホントは汚くなった自分が親よりも何よりもだいきらい。だけどもう戻り方なんて分からないからいつまでも気を張って強く在ろうとする。
「おい、なにをしている」
頭上からそんなふてぶてしい声が聞こえた。そんなのあたしが聞きたいよ。こんな街の端っこでずぶぬれになって座り込むあたしの姿はさぞ滑稽だろう。はっはは、笑えない。
「いじけてるの」
「面倒な女だ」
「そう?あたし都合のいい女ってはいわれるけど」
「それは誉れのない嘲りだな」
「まあね」
お兄さんこそこんなところでなにしてるの。クスリと笑ってみせるとその青年は鼻でわらった。
「なに、ただ少しばかり時間ができたのでな。暇つぶしだ」
「ならどう?あたしも今丁度ひまなの」
「よせ。雑種の相手などしていられるか」
ひらひらと手を振ってその青年は隣にたった。相手しないんじゃなかったの、とは言わず。
よくみればかなりのあたし好みのイケメンだなあ、なんて考えてる自分にわらった。
「あたしさ、親が嫌い」
「その憎き腹から産まれたという事実は変わらん。恨むなら生れ落ちた己を恨むがいい」
「あんたむかつくくらい辛口」
口角の端をつり上げてそのイケメンはどこかにいなくなった。いつのまにか空は晴れていた。