「こら、いつまで寝てるんだバカ娘!」

「ぎゃっ」

「九代目達はもう行ったぞ、早く支度しろバカ娘」

「バカバカうるさいわ!てかもう着いたの?」

「さすがボンゴレだな」


そんなキラキラした目で言われたってどう返せばいいの。ボンゴレって時空ワープ的なのができちゃうのもしかして!んなわけあるか。向かいにザンザスが居ないことに底知れない安堵を感じながら、引っ掛けてあった櫛を髪に通し支度を整えた。…足が動かない。


「父さん、今なら遅くないよ。婚約を破棄して帰ろうよ、私いい子になるからさ?ほら、父さん前私が紳士連れて結婚してボスを継がせるのが夢って言ってたじゃん、叶わなくなっちゃうよ?」

「いいんだそんなの、ボンゴレの御子息の嫁の親の方がすごいじゃないか」

「こんのハゲェェェエ!!」


窓の外はそれは立派な空港ですよ。イタリアの空気感じるよ、涙出そうだよ。この国で私は生涯の幕を閉じるのね…さらば日本。あの目玉焼きみたいな日の丸を一生忘れないよ母国。父さんに手を引かれて強制的に引きずられるようにジェット機を後にする。もう最悪。なんでこんな親の元に生まれたの私!二度と来たくないと思ったイタリアの地を踏んで、待ち受ける魔王の元へと着実に向かう私と父さん。くそ覚えてろよ。死んだら呪ってやるんだから。ターミナルに入って手続きを済ませたらリムジンへと案内される。因みにもうザンザスも九代目も乗っているんだとか。


「ディレット様は大変愛らしいお顔立ちですね」

「ははは…初めて言われましたわ」


父さんと私のお世辞ばかりつらつら良くも尽きずに言えるねってくらい話した後に、リムジンに到着。おだてられて幸せそうな父さんがもう別の人間に見えた。なに、気付けよお世辞だよそれ。黒塗りで窓にスモークの貼ってあるリムジンの扉が開き、助手席と後部座席に乗るように促される。無論私は後部座席のザンザス行きだ。九代目の隣だなんて羨ましすぎるぞなんで私はさっきからこんなのの近くなのよ誰だよ黒幕は。目の前に居るけど九代目を恨めないから父さんの背中に蹴りを入れた。


「ハッ、随分間抜け面で寝てたじゃねえか」

「うっさいわね」

「おいディレット!ザンザス君になんて口の利き方を…」

「いいんじゃよ、楽しそうでなによりじゃ」


どこら辺が楽しそうに見えますか九代目!人を小馬鹿にした態度のザンザスと怒り狂う私を誰が見たって仲良く見えないでしょうが、ねえ!深々と頭を下げる案内人と運転をする九代目と私達の後ろにずらりと座るボディーガードを乗せたリムジンは静かな音を立てて走り出した。なんていうか九代目、運転手じゃなくて自分で運転するんですね。疲れてるだろうにカッコいいな九代目、惚れるってホント。仏頂面で眉間に皺を寄せるザンザスのそれは恐ろしいこと。慣れてきた自分も悲しい、いつかDVにも慣れてしまうのだろうか。自分自身にも同じくらいの恐怖を感じた。未来が怖くて仕方がない、どうしてくれる私昔は早く大人になりたいーとか騒いでたけど、そんな頃が懐かしくて仕方ない。幸せだね何も知らなかった私。警告するよ、イタリアに行ってはいけないよ。未来は変えられるんだよ私。見慣れないイタリアの景色を呆然と眺めながらもう踏めない日本の地に思いを馳せた。


「ディレットちゃん、ザンザスは無口で少々気性が荒いけど本当は優しい子なんじゃよ。きっとディレットちゃんなら分かってくれると思ってね」

「…そうですか」

「勝手な事抜かしてんじゃねえよジジイ。オレはこんなカスとの婚約なんざ認めてねえからな」

「これ以上いい相手はもう居ないと思うよ」

「るせえ。こんな貧相で煩わしいガキのお守りをさせる気か」

「言いたい放題言ってくれますけどね、一つしか年齢変わんないからね!?私だって九代目には悪いけど、あんたみたいなのと結婚なんて絶対に嫌だから!必ず脱走してやるんだから!!」

「フン、どこにでも行けよカス女」

「カスカスうるさいな!日本語知らないのそれしか!」

「イタリア語も話せねえテメェが言うのか、それ」

「むーかーつーくー!」


やだ、やっぱ絶対やだこんな男いやだ!ザンザスと結婚するならそこらの優男の方がうん十倍もマシだ、絶対無理私には無理手に負えない!どうして私なんかに目を留めたの九代目!暴力うんぬんの問題じゃないじゃない、もうこれ殺人だよマフィアだから当たり前だけど!九代目の息子、妻を殺害なんて記事が簡単に浮かぶようわああどうしようムカつくーー!威圧感で圧迫死出来る、プレスされるもう寿命を考えたくない。死んだら真っ先にこの男を呪ってやる、父さんは二の次だ。目頭がじわじわと熱くなってきてルームミラーには九代目の少し困った表情が映っている。ごめんなさい、だけど本当に嫌なんです。後ろからじりじりと痛い視線を感じて泣きそうになった。誰か共感してください。


「お前と言う奴は…はあ」

「何よ。頭抱えたいのは私だからね」

「照れたってなにも進まないぞ」

「誰が照れてるって!?有り得ないから!」


何で大人ってこう…!むしゃくしゃするけど壁が殴れないから予備で持っているヘアピンを鞄の中で折った。パキリとあっけなく折れるのでストレスは解消されない。どこでも殴れるし蹴れる頑丈な我が家に帰りたい。素っ気無いけど優しい使用人さんに会いたい、どこでも自由に駆け回れる我が家に帰りたいい…!誰か私を救い出してくれないかな、惚れるよ今ならもれなく気立てのいい彼女が出来るよ。あ、訂正。良くなる予定の彼女です。小一時間ほど走ったリムジンは、でかい門をくぐり広い敷地をどこまでも進む。丁寧にカットされた植物や石の置物、色鮮やかに咲き乱れる花々がうちの庭と比べ物にならないくらい綺麗。さすがボンゴレ、一流の庭師を雇ってるんだ。軽く3キロはあった道をどこまでも進み、漸く停車。なんでこんなに大きくしたの、敷地。日本にあった屋敷とは数倍違う大きさと迎える使用人さんの数に、私だけでなく父さんも目を白黒させている。ガチャリと扉が一人の使用人さんによって開けられ、エスコートされてリムジンを降りた。パニックになる私と父さんを他所に、ザンザスは威風堂々といったように当然のように場に馴染んでいる。…なんていうか、さすがだ。横暴亭主候補に更なる不安を覚える。偉そうっていうか、いや実際偉いんだけど。絶対幸せになれない男ランキング堂々の一位を獲得するよねこいつ。


「それではお部屋まで御案内いたします。ザンザス様もどうぞ御一緒に」

「誰が行…」

「い、いい行こうよザンザス、ほらほら」

がっしりと腕を掴んで引っ張ってやれば、不意を突かれたザンザスは抵抗を忘れた。だってザンザスの部屋を把握しておけば脱走計画が着実と進むもの。あと父さんと九代目の部屋も分かれば、なるべく通らない窓から逃げて話は終わる。嫌そうに眉をしかめるザンザスを無視して使用人さんの後ろを着いていった。…いや、いやいやいやちょっと待て!


「こちらがザンザス様とディレット様のお部屋となります」

「え、すみません、"と"ってなんですか」

「九代目よりザンザス様とディレット様に一番大きい部屋を与えるように言付かっておりまして。それでは」

「おいテメェざけんなよ、クソジジイに変えろと今すぐ言って来い」

「私も勘弁して欲しいんですけど…!!」

「では一応お話は通しておきますので。どうぞ今しがた御辛抱ください」


丁寧に頭を下げて歩いていった使用人さんにザンザスが殺意の篭った視線を向ける。そしてその目は殺気を緩めることなく私へ。…なに、私だっていやなんですけど。

「てめえは外で寝ろ」

「望むところよ」

こんな男と一緒の部屋で寝たらどうなることか!廊下で寝た方が何倍も安全だわ!とりあえず部屋に入り荷物を空けて、備え付けであったクローゼットの大きいほうに服をしまっていく。女なんだからいいでしょ、とザンザスに言えば好きにしろ。と一言だけ言ってでかいソファにどっかりと座り込んだ。こんどは瞬間接着剤を塗っておくことにしよう。服を半分ほど仕舞い終わったところで洗面台に向かい、髪を直す。今日は寝癖を中途半端にしてたから悲惨だ。高そうな櫛を恐る恐る手にとり梳いていくと寝癖は綺麗に直った。正面の鏡に映る私はそれは薄幸な顔をしていて苦笑。もうこの世の終わりだ…みたいな顔。私って結構顔に出るタイプらしい。ザンザスに会う前の自分の顔が思い出せないから悲しいよね。このままだと一生分の運が消えてしまう、一刻も早くこの牢獄から逃げなければ。










 
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