イタリアに向かうジェット機の中、ザンザスくんは恐れていたこととは裏腹に私になにもしてこない。ちょっと具合悪いんじゃないの。もしかして高所恐怖症!?ぷぷーださい!なんて考えてたら顔にどこにあったのか水が飛んできた。あれこんなの前もあったよね?ねえ!

「な、なにかした?」

「顔に出てんだよドカスが」

「…ナンノコトカナ」


にやあと笑いを浮かべたらわざとらしい舌打ちをされた。むかつくなあ…っ!もうかれこれ数時間…ていうか半日は過ぎてると思うけどなんなのこれ。私はどこ向けばいいのよバカ。正面なんて怖くて見れたもんじゃない。黙って眉間の皺を伸ばしてその横暴な性格と思考を直せばただのイケメンだろうに。私を婚約者に選ぶ時点でもうお相手が居ないとの九代目の判断なのだろう。押し付けだ、私なら耐えられるとでも思ったのか!うあああと心の中で泣きながら頭を抱えているとザンザスくんが低い声で私を呼んだ。え?名前じゃないよ、おいとかそんな呼び方だよ。


「なにザンザスくん」

「勘違いすんなよ」

「え、なにを」

「オレはてめぇの事なんて何とも思ってねえからな」

「助かります」


てめえが好きだ!ドカス!なんて言われるより全然嬉しい。ていうかそんなこと言うか知らないけどね。春を呼ばないでくれてありがとう。そのまえにどの辺りに勘違いする要素があったのか激しく聞きたいんですがね。私の一生をこんなのにくれてやるつもりは毛先ほどもないから安心してよ、なんて言えたらカッコいいけど私のチキン精神はそれを許さない。私だって命は惜しいのです。


「ザンザスくん」

「うぜえ。呼び捨てでいい」

「え…………、……うん。ありがとうザンザス」


うわ超いやだなとか考えながら応えたら予想以上に間が空いちゃったぞどうしようこれ出すぎ!わかりやすいよ私!こうして着実に私の寿命は縮んでいくのだ。ひぎいいい。



「…寒くない、かなザンザス」


沈黙に耐え切れず引きつった笑顔で聞いてみたら無視。寒くないってことですか。もうザンザスの行動とか言動とかは把握しちゃったよ私すごくない?悲しい気もするけど対応力というかなんといかさ、柔軟性があるのよね私!って言ったら父さんにバカにされたんだよね。我ながらこれって長所だと思ってるんだけど。目の前にヤクザ顔負けのマフィアの御曹司(しかもあさり家族の)がいるのに平然、ではないけど冷静でいられるって滅多にないと思うんだけど「……くっしゅん」…え?

「ザンザス、え、あ、くしゃみ?」

「誰がいつ…っくし…」

「寒いんじゃん温度上げて貰おうよ!!」

「ああ?ふざけんな誰がっくしょん!!」


段々オッサンくさいくしゃみになってきたザンザスに今にも笑い出しそうな口元を押さえて、試しに扉を中から叩いてみた。返事が無い、ただの扉のようだ。当たり前か。未だにくしゅんくしゅん騒いでるザンザスが哀れになってきて、自分が羽織っていた上着をザンザスにかけてあげた。当然ながら睨みを利かされたけどもう無視あるのみ。私風強いしね。


「さっき助けてくれたお礼」

「は、要らねえよ」

「くしゃみうるさいからあげるっつってんの!!強がってないで好意に甘えてよ!」

「…チッ」


相当寒いのか早くも折れたザンザス。舌打ちしないでありがとうの一つでも言えよ御曹司め。金持ちってこれだから…っ!ふっかふかな椅子に座ってもなんか無性にイライラして危うく携帯を握りつぶしそうになってしまった。あぶねえ!らしくもなく貧乏ゆすりとかしちゃってかといって目の前の人物に怒りをぶつけられないし壁を殴ることもできない。ひたすら耐えるだけの時間を過ごすというのは予想以上の苦痛で暇すぎて死にそう。唯一移り変わる窓の景色を食い入るように真剣に見てたら、


「…うっ」


時計を確認したらもう二時間外を見てたらしくて当然ながらってかなんというかまあ、酔った。喉までこみ上げてくる嘔吐感をなんとか紛らわすように顔を上にむけて色んなことを考えたり。逃げたい飛び降りたい助けてとか浮かぶのはなんか可哀想なワードばかりで泣きそうになった。うええ吐きそう気持ち悪い。袋とかなんかなかったっけとか頭をフル回転させてたら急に視界が暗くなった。ちょ、え、停電?


「顔が青いんだよ」

「…あ、うん」

「気分悪いなら寝ろ。目の前で吐かれてもうぜえだけだ」

「そんな急に寝られないって」


なんて言った尻から瞼に置かれたザンザスの手が暖かくてうとうとしてきた。単純だなあとか自重しながら、最後の抵抗で手をどけようと自分の手を伸ばす。あ、ごつごつしてる。男の人の手って父さん以外の人のは初めて触った。めちゃくちゃ暖かいんだけど…。ここで睡魔がピークに来てあろうことかザンザスの手を握ったような雰囲気で寝てしまったのは後に知った話である。よだれを口の端からたらりと流して幸せな顔で眠る私はそんなことを思いもしなかったのです。











「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -