仕方なく食堂に連れて来てやったら、無言で超睨まれた。おいおいまさか持ってこいとでも言うんですかそうですか。いや持ってこないけどね。甘いぞ!敢えて使用人さんの名前を呼んでスルースキルを発動しようとしたらなんと首をつかまれた。ぐぬぬぬ苦しいいい…っ!てかボスの娘が殺されかけてんのに聞こえないフリすんなよ。無視するならするで横目でチラチラ見るな、助けてください。取り敢えず殺されたくないのでばたばた抵抗したらどさりと離されて、情けなくも尻餅をついてしまった。はずい。


「カス」

「…私はディレットでございます」

「知るか。日本茶持ってこい、一分以内だ」

「は、そんな、無茶言うなバカ!!」


ゴツンと先ほどよりは控えめになぐられた。い、いてえ…!私の頭は木魚ではありません。ここは私が一歩大人にならなければいけない、そういう時もあるのよディレット!まあ素直に言うことに従うなんて癪だから、ちょーおゆっくり準備したけどね。ついでに私の紅茶も作ろうと、どれにしようかなーなんて選んでいて結局時間は40分も要した。良い具合に過ぎているじゃないか。日本茶とアップルティーの良い香りを嗅ぎながら、最後の仕上げにゆっくり歩いて来てやったわ。どうだ次は殴られないぞ!避けるっ。新たな意気込みを胸にザンザスくんのところへ戻ったら、私の予想に反して気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。え、身構えた私が恥ずかしいじゃないの。コトリとペンを机に置いて、折角の機会なのでその寝顔を拝見させて頂くことにした。こいつは黙っていれば女受けしそうな顔なのに、あんな暴君だと逃げるんじゃないだろうかね。いや、でもボンゴレの一人息子で御曹司なのだからもしかしたらモテるのでは。九代目も私なんかじゃなくてこう…、ぼんきゅっぼんなイタリア人とかアメリカ人とか選べばいいのに。ザンザスくんの好みもきっとってか絶対そうに違いない。ソファに我が物顔で眠りに付くザンザスくんは、寝ているにも関わらず偉そうでむかついた。


「ぷっ、眉毛割れてるし!どうやったらこんな生え方するの。肌意外にすべすべなんだけど、何この敗北感」


一頻り遊ばせて頂いた。もちろんザンザスくんの顔でね。最後の仕上げに油性ペンで鼻毛を左右3本ずつ計6本生やした。ぷぷ、似合うぞザンザスくーん。笑いを堪えて少し離れたところに腰を下ろしたらなんだか私まで眠くなってきたので、距離をあとちょっと開けてそっぽむいて背もたれに顔を乗せる。ふああ眠い。…いや待て落ち着け理性を持つんだ私。こんなやつの隣で寝たら目が覚めるのはあの世でに違いない。もう一度あの痛みを思い出せ!まだ若干頭部が痛むじゃないか耐えるんだ。……やっぱり無理かもしれない。睡魔がぽわぽわした感覚を運んできて、あっさりと負けた意識。何の抵抗だったのと自身に問いただしたいところだけど、もう限界。ブラックアウトした意識はなんだか心地よくてぐっすりと眠りについた。



「……おい日本茶はどうした……、寝てやがるのかカス」

起きろ、と出かけた言葉が喉の奥に引っ込んだ。崩れた顔の無防備さったら言葉では表現できない。アホじゃねえのか、とザンザスは頭を抱える。溜息もでなかった。寝起きの浮遊感に見舞われながら机に視線をずらすとそこには少し冷めているだろうが日本茶とアップルティーが置かれていた。一応言いつけを守ったことに満足したのか、フンと鼻を鳴らしそれを手に取り口に含む。当然だけど冷めかけた日本茶は、というか温かい状態だとしてもきっとこれは淹れ方に問題があったらしく独特な味。一瞬眉を顰めたが、一気にそれを飲み干したザンザスはゴトッと乱暴に机に湯飲みを置いた。

「…不味ぃ」


そしてそのまま隣に置かれたアップルティーを手に取り、同様に冷めかけたそれを何も躊躇うことなくディレットの頭にかけた。当然だが飛び起きて状況が良く理解できなかった頭も段々と把握を進め、キレた。

「なにするんだよ!しかもこれ私のアップルティーだし!!」

「うるせえ。不味い日本茶なんか飲ませた報いだ」

「自分が淹れろっつったんだしょ!?ふざけんな!理不尽だ!!」


さも飲んでやったぞ、みたいな態度に私の怒りは当然のように募る一方。てか何さありがとうくらい言えば!?と思ったけどこの男は異常なまでにガキくさいことが理解できたため冷静になろうと息を吐いた。ぽたぽた滴る紅茶が段々冷えてきて、さすがに春少し前の気温にしては寒くなる。くそ反抗期ってこれだから…!私もだけどさ。機嫌悪そうに三回目の舌打ちをしたザンザスくんは食堂の扉を開けてどこかに行ってしまった。迷うがいいさ、道案内なんてしてやるものか。ダッシュでさっきとはまた別のルートで応接室に駆け込むと、息を切らす私とは対照的に涼しい顔でザンザスくんが座っていた。どかりとテーブルに長い足を乗っけて。


「な、なんであんた」

「普通こんな道一回通れば覚えるだろ」

「破棄!あんたとの結婚なんて破棄するわ我が儘なガキ!!」

「ハッ。こんな女願い下げだ」



さきほどよりも中が五割増しで悪くなった私達と、このアップルティーの匂いをぷんぷんさせて暴れる私を見て、九代目は困ったように眉を下げた。ごめんね、と謝るのは何故だか何も悪くない九代目でそれがまたムカついてザンザスくんに近寄って花瓶の水を頭からかけてやった。


「ざまあみろ」

「ディレット…!!九代目の息子になんということを!」

「テメェぶっ殺されてえのか!?」

「殺れるもんならどうぞ、お坊ちゃん」

「このカス野郎があ!!」



今にも殺し合いに発展しそうな私とザンザスくんを止めたのは九代目と父さんと声を聞いてかけつけた三人の使用人さん。一生懸命私をなだめる九代目に声高らかに宣言してやった。


「絶対こんな男と結婚なんてするもんかー!!」



父さんがショックを受けたように顔を青くさせたけど、誰が一番ショックか分かってるのだろうかこの男は。


 
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