家出をしようかと思う。あんな常時不機嫌男と結婚なんてした暁には家庭内暴力の耐えないバイオレンスな家庭になる。そんなのは絶対に無理だ。私は自分の人生は自分で決めたいので、こうして荷物を纏めて旅にでることにしたのだ。コツコツ貯めたお小遣いがあるから大丈夫だよね!ディレットちゃんは今!旅立つ!


「何をしてるんだ、九代目様がお見えだぞ」

「いやあああ離せえええ!!」

「九代目の御子息との婚約だなんて光栄なんだぞ!さっさと支度をしないか!」


出た。九代目の御子息なんだから発言。もういいよ聞き飽きたって。たとえ神様の子だとかいわれてもあんな凶悪面した男なんて願い下げだ。怖すぎる。ボンゴレの傘下に入った父さんにとって九代目は絶対的存在でありもう…神に等しい存在で崇拝してる。怖すぎる。どうやったらあんな優しい九代目から悪の塊みたいな男が生まれるのかが疑問だ。善良マフィアと呼ばれたボンゴレももうおしまいかもしれない。だらだらとクローゼットに入れられた上品なワンピースを出して亀のスピードで着替える。気分ガタ落ちだ、あんな旦那絶対にいやだ。何度も言うけど本当に嫌なんだよ。髪を適当にとかして部屋を出たら、最近派遣された使用人さんが迎えにきてくれて応接室まで案内された。別に一人でも行けますがなにか。ただでさえ少ない使用人さんをこんな事に使うなんてさすが父さん。ガチャリと開けられたドアの向こうにいる、悪夢にまでみた赤い目とばっちり合った。すぐに逸らされてかちんと来たけど、いけ好かないのは私も同じだ。是非とも取り消して頂きたい。


「ザンザスがすまないね」

「あー大丈夫です気にしないでくださあい」


どかりとソファに座り、足を組む。こうなったら相応しくないことをアピールしようかと思う。九代目様がどんな御意向でこんな縁談を持ち込んだかしらないけど、嫌われれば向こうから断ってくれるはず。優しい九代目を裏切るのは心が痛むけどこれもわが身を守るため。ていうかおまえも拒否しろよって感じなんですが。


「今日は機嫌が悪いのかい?」

「ええそれはもう」

「こらディレット!九代目にご無礼な態度を取るんじゃない!!すみませんこいつは本当にダメな娘でして…」

「なにヘコヘコしてんの父さん」

「なっ!!おまえというやつはどうしてこう…!」

「だって結婚なんてしたくないもーん」


おおおおごめんなさい九代目えええ。九代目がお父さんになることだけなら嬉しいけど、付属でザンザスくんが付いてくるなら残念だけど絶対にムリ。あんなに優しくしてくれたのに薄情な女でごめんなさい!というか私まだ15歳!色々と早すぎるよ父さん!!


「こいつ照れると反抗期になるんですよははは…」

「はあ!?」

「過度の照れ屋でして、どうか御気分を害さないでください」


大人というやつはどうしてこう…っ!昨日もザンザスくん全然照れてなかったじゃん!言い訳と照れるってイコールで結ばれてるのかもしかして!あああほらザンザスくんの眉間の皺が増えてるよおお父さん止めてくれええ。よし決めた。逃げ出すなら深夜にしよう。一刻も早く逃げ出さないと本気で将来をつぶすことになる。


「まだ二人に早い話じゃが、ディレットちゃんならザンザスと上手くやっていける気がしてね」

「な、何故私なんですか」

「さあ、どうしてだろうか」


何となくじゃダメかな、と笑った九代目に正直に頷いてやりたかった。なんとなくでドメスティックな将来にされてたまるか。見るからにザンザスくん犯罪のひとつでも起こしそうな顔してますよ良く見てください九代目!ちゃぶ台ひっくり返す顔してますよ!チッと二回目に聞く舌打ちをしたザンザスくんが立ち上がり、イライラした様子で部屋を出て行こうとした。すかさず九代目が止める。


「すまないね、ザンザスは我慢がまだ得意じゃないようでね…もし良かったら此処を案内してやってくれないかい?」

「(私じゃない私じゃない)」

「ディレットちゃん」


やっぱり私になるんですね。ディレットという名前を指名した瞬間にザンザスくんの眉間の皺がまた深くなった。無言の圧力をかけないでほしい。私マフィアの娘ってだけで一般人ですから。そういうの耐えられるスキルは生憎持ってませんのでマジ勘弁してください。


「きゅ、九代目の仰ることならば従います」

覚えとけよ父さん。イタリア旅行なんて行くんじゃなかったと心の底から後悔した。もう一生旅行なんて行かなくてもいいからどうか婚約解消をしてください。体と脳が拒否をするなか必死で立ち上がり、鬼のような形相で私を睨み続けるザンザスくんの隣に立った。うおおお緊張で心臓がばくばくいっておりますうう。落ち着け私、なにも殺されることはないだろう。とりあえず愛想良くしておけばきっと殴られないだろう。

「ご、ご案内しますね」

「ゴタゴタ言うな。かっ消すぞカス」


前言撤回。やっぱり殺されるかもしれない。…ジーザス!小刻みに震える指先でドアを開くとズカズカ歩いて行くザンザスくん。人の家をこいつめええええ…っ!!よく分からない怒りのぶつけどころに困って思い切り壁を殴れば、まだ開きっぱなしのドアの向こうで九代目と父さんが目を丸くしていた。おほほほほ。ダメだ逃げたい。長い足で先を偉そうに歩くザンザスくんに小走りで追いつき、笑ってみせた。一度の失敗でめげるな、愛想良く愛想良く…

「ヘラヘラしてんじゃねえよ、気色悪ィ」

「それは失礼しましたあ」


にっこりと笑い嫌みったらしく語尾にハートつけたら殴られた。い、痛い…!容赦してるんだろうけど女の子を殴る強さじゃないぞこの男!嫁入り前の女の子の頭にでかいたんこぶをこしらえるつもりかこのやろう!またもや怒りのぶつけどころに困って前髪をとめていたバレッタを半分にへし折った。今度はザンザスくんが一瞬驚いて妙な満足感に満たされたのはここだけの話だ。言えば殺されるに違いない。


「ザンザスくん」

「…うぜえ呼び方すんなカス」

「じゃあカスくん」

「殺されてえのか?あ?」

「じょ、冗談だよいやーね」


ダメだ会話がちっとも楽しくない。ていうか会話の一言目がゴタゴタ言うなって可笑しくないか。外見を裏切らない性格のようでよけい不安になったよありがとう。これで家出をする決心が完璧に固まったわ。携帯にはGPSがついてて危ないから財布と着替えだけもって逃げよう、できるだけ遠いところに。いっそ山奥にでも行くか。見つかれば全てが終わる脱走計画は私の脳内で着々と進められております。確実性重視の結果、徒歩改め自転車で逃げることになった。


「おいカス」

「カスじゃありませんディレットです」

「どうでもいい。喉が渇いた、連れてけ」

「………りょーかいしやしたー」



こいつ私を家政婦か使用人と間違えてないだろうか。またもやぶつけどころの分からない怒りに駆られて思いっきり壁を蹴った。ちょっとこの壁もろい、ヒビ入ったんですけど。



 
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