謎の少女の真相


 


「それで、私は死んだんですけど…どうやら生き返っちゃったんですかね?」

「だとしたらアンタあれじゃんあれ。ゾンビ!」

「ちょっ、人聞きが悪いですね、天使とか妖精とかもう少し可愛いのにしてくださいよ」

「でも見たところ足もあるしさ、本当に死んだの?」

「…車に轢かれて血がダラダラ出たんですから、死んだんじゃないんですか?」


そんなの俺に聞かれても、と楽しそうに答えた龍之介さん。

あのあとざっと10回くらい殺されたんだけど、痛みも感じずに体は蘇生される。どうやら死ねないオプション的なのでも付いてしまったらしい。
龍之介さんの正面に向き直り、慣れない正座をしていたものだから痺れてあしが震えている。


「龍之介さん」

「堅苦しいなぁ、呼び捨てでいーって!」

「あの、じゃあ龍……さん」

「どこかのヤクザじゃないんだからさ」

「私、そろそろ失礼します」

「えーなんで?行くとこないでしょ?いいじゃんここに居ろって」

「いや、ちょっと、あはは」


ぴちゃぴちゃとそこら中で滴る血、切れた手首や臓器、頭が転がってるのは落ち着けない。
漫画で見てたから分かってたけど実際は死臭もグロさもハンパじゃない。こんな所に女の子がいていいわけがない。

よいしょ、と立ち上がったら丁度ナイスっていうかなんていうか、ご帰還なされた。


「おや、客人ですかリュウノスケ」

「あ、お帰り旦那!」

「随分とまた良い素材を持ち帰りましたね、彼女はどうするのですか?」

「これがさ聞いてよ旦那!なんか別の世界的な所から来て殺してもすぐくっつくんだぜ!!」

「ほう!それは素晴らしい!」


ちょっと失礼しますね、と腕を取ったキャスターにはるなはにっこりと笑い頷く。
どこからともなく現れた触手のような出で立ちの怪魔がその白い腕を噛み千切り、ボタボタと血が落ちる――と思ったのだが、そこからは血が一滴二滴落ちるとあっという間に蘇生された。


「…何ということでしょうか」

「な?すげえだろ旦那!!」

「貴女のお名前は?」

「はるなです」

「はるな、ですか。よろしい、我が聖杯を掴むべく彼女にも参戦して頂こう!」

「え、ちょ、すみません私ここに居るつもりは」

「そうと決まれば早速生贄集めですリュウノスケ」

「えええあの、ちょっと!」

「今日は昨日の家族の家の近辺で集めようぜ旦那!」

「ええ、今日は幸先がいいですからね」


正直なところ、龍之介の趣味と名前と顔は把握していたけど何せ頭が悪い私は難しい漫画が頭に入らない。
だからその他の知識といえばセイバーとか、あとキリツグ?とかキャスターの見た目とかあやふやなのです。

というか正直内容が頭に殆ど入っていない。


「あの、キャスターさん」

「私はジル・ドレェです。ああ、この世界では青髭と呼ばれていますね」

「…あの。どうして生贄なんて」

「私は生贄を、屍を山の如く積み上げなければなりません。神に自らのした行いを懺悔させ、また我が麗しの乙女を神の呪縛から開放するのです」

「神様が何をしたんですか?」


「処女を、奪われました」

「え!?」

「私の処女を無残に奪い、神は私を……」

「…そんな酷い事を」


神様とはそんな卑屈な存在であったというのか。今私は神社の存在に疑問を持った。

ジル・ドレェさんはこの耐え難い惨事があって神様に対して贄を…。
その前に女性の方だったとは。


「…おお、私の事をそのように憤慨してくださるのですか…?」

「当然です、そんなのは許されることではありません!挫けないで下さい、負けないで下さい私は応援しています」

「ええ負けるものですか!神に後悔させるべく私は贄の山を成さねばなりません!」

「頑張ってください、ジルさん!」


「リュウノスケ!彼女はまさに現世の聖処女!私の良き理解者です!!」

「…あー、うん。そうだね、多分すげえ勘違いされてると思うけど」

「勘違い?」

「言っとくけど旦那が奪われた処女ってのは想い人のことで、旦那の貞操とかそんなんじゃないぜ」

「あ、そうですかごめんなさい」

「おぉ…、我が愛しの聖処女は成すすべも無く何より厚く敬い、信仰した神に救われることも無く魔女として処刑されてしまった。
この愚行は天上に住まう神とて赦されることではありません!」



ぼろぼろと涙を流すジルさんに胸が痛むような思いに苛まれる。


きっと何よりも、誰よりも大切な人を奪われてしまったんだ。


「ジルさん、一緒に頑張りましょう」

「…っええ、神に一矢報いましょう!」

「私、人殺しとか…抵抗あるけれど、うん。頑張ります」

「すっげえ楽しいぜ!それに旦那の殺しっぷりっていったらスプラッタ映画の比じゃねーよ!
なんなら慣れとく?牢に居る六人の子供、殺ってみれば?ほら、アンタのすぐ後ろにも一人居るし」


そういって私の後ろを指す指の先には、口を布で縛られて涙を流す少年が居た。
懇願するように私を見つめる視線に締め付けられるような想いを感じながらも、そっと龍之介から受け取ったナイフを握る。

きっとここで踏み出せば以前の私では居られなくなる。

だけど私はジルさんの為とかではなくて、この世界で生きていく上に成さねばいけない前戯なのだ。


「…ごめんなさい」



一瞬で死ねるように首を深く貫けば、綺麗な赤が飛沫のように飛ぶ。

人間の命とはこうもあっけないものなのかと驚くほど冷静な自分の思考に溜息すら出なかった。





 


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