繋いだ手は冷たかった


 

雨生龍之介は目の前で起こる変化に、ただただ心を躍らせていた。
突如として空間が捻じ曲がりその大口を開いたような穴。

そしてそこから現れたまだあどけなさが少し残る愛らしい顔立ちの―――少女。

金色淡い光がフッと消えて、少女は床へと落下した。


「やっべえ!すげえよ何これ!なんて企画!?」

その白い首に、男性にしては細く綺麗な指を這わせるとくすぐったいのか少女の口からはくぐもったような声が出る。


青髭と名乗る男、ジル・ドレェに出会ってから、雨生龍之介は今まで以上の興奮と快楽を手にしていた。
現実的には不可能な殺し方、嬲り方をあの奇怪な魔術師が教えてくれる。魅せてくれる。


だが今、目と鼻の先で起こった現象は誰の意思で起きたわけでもない、正に超怪奇現象。雨生龍之介の人生に加えるスパイスだ。



「なあ、生きてる?」


つんと指先で頬を突いて眺めていたら、長い睫のあしらわれた双瞼がゆっくりと開かれる。吸い込まれるようなダークブラウンの目に龍之介は息を呑んだ。


そして込み上げる、殺人衝動。

彼女をどうアートするか、一瞬でその難題で龍之介の頭はいっぱいになった。どのタイミングで殺め、どの部首を使い、どんな素晴らしい作品に仕上げようか。
アーティストには遠く及ばずながら龍之介が思考を廻らすと、少女の口からぽつりと音が漏れる。


「龍之介…?」

「、え?」


さぞかし間抜けな表情をしているだろうと考えたが、そんな邪念は一瞬で消える。

今言葉となって紡がれたのは確かに、自分の名前だった。流石の龍之介もぽかんと呆けるが、そんなことはお構い無しに少女は続ける。


「すごい、ここがキャスターの魔術工房…!あれ、でも私死んだんじゃ、」

「ちょっと待って、君初対面だよね?オーケイ?」

「あ、はい初対面です」


けろっと事の重大さをまるで分かっていないように答えた少女にがっくりと頭を抱え込む。

いやでも待てよ、口ぶりからこの子は俺の事を知っているのでは。
にっこりと好青年のような笑みを浮かべて龍之介は携帯しているナイフを後ろ手に握った。


「ねえアンタ、俺のアートになんない?ってかなって」

「アート…、うん。いいですよ、どうぞ。腸なり心臓なり好きに使ってください」


私もう死んでるので。そう付け足した言葉に理解は出来ないものの、こうもアッサリと首を縦に振られるとは思っていなかった龍之介は一瞬で少女の首を切り落とした。

可愛い顔は残して、体を時計に出来ないだろうか。そして頭はテーブルランプのオブジェに、そう考えてナイフを握りなおした龍之介は本日二度目で目を見開く。

首がみるみる蘇生されていくではないか。




「…あれ、おかしいな…」



首には傷一つなく、まるで何事もなかったかのように少女は話す。


「――す、」

ふるふると肩を震わせる龍之介に気付き、少女が顔を覗き込むと目を爛々と輝かせた龍之介が居た。


「え?」

「すっげえええ!マジ超COOL!!すげえ綺麗に切ったのに戻ってんじゃん!!」


興奮気味で少女の手を取り、上下に激しく振った龍之介は堪え切れない歓喜を誰かに伝えたくて近くに居た壊れかけの少年に笑顔で同意を求めた。無論、返事は無い。


「アンタ名前なんていうの?知ってるだろうけど俺は雨生龍之介!フリーターで趣味は人殺し全般、あー今は居ないけど青髭の旦那と日々楽しんでます!」

「私は浅木はるなです、お会いできて光栄です龍之介さん」



 


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