かみさま、きいて | ナノ

彼が言う

 


「ウェイバーはお先にお風呂どうぞ!」


そう言われて甘んじて風呂へ向かったウェイバー。本当は部屋で本を読みたかったが、確かに少し汗をかいたというのも事実なので真っ直ぐに脱衣所へ向かう。セーターを脱ぎ、ネクタイを外してシャツを脱いで、一枚一枚はだけていくウェイバーはぼんやりと現状を思い直す。そういえばなんであんな普通に馴染んでるんだよ咲は。


「…ライダーだったらどうするんだろうな」



もし自分と同じ状況があの大男に振りかかったら、彼は一体どうするというのか。答えは聞くまでもない。彼は言う、どんな世界であったかとまず真っ先に。世界に対する興味が人一倍強いあいつのことだから、目を輝かせて聞くことだろう。全てを脱ぎ終わってタオルを腰に巻き、風呂場のドアを開けて中に入った。どっと疲れが押し寄せる。今日は色んな事が一気に起きたせいで久しぶりに感じる疲労に懐かしさを感じながら蛇口を捻った。



「(どうしてこう、ボクの周りには無茶苦茶なやつばっかり…)」

髪を洗い終えて体を洗い、湯船に浸って少しすると咲が自分の名前を呼び始めた。どうやら夕飯が出来たらしい。少し名残惜しいがバスタブから出てタオルで軽く拭いてパジャマに着替えると、リビングへ向かう。カレーのいい匂いが廊下まで漂っていた。



「あ、マーサさん来ました!」

「あらウェイバーちゃん早かったのね」

「そいつの声がうるさくて」



はは、と笑いいつもの定位置に付くウェイバー。咲がトレイに乗せて人数分のカレーを運んできた。実に久しぶりのカレーである。その後コンソメスープと麦茶が運ばれてきて、四人揃ったところで夕食を食べ始める。無論いうまでもなくウェイバーの隣はちゃっかりと咲がキープ。


「ウェイバー、スープ私が作ったの!」

「ふーん」

「初めてのコンソメスープだけど美味しく出来たから!飲んで!」


にぱあっと笑顔のオプション付きでスープを勧める咲にウェイバーがそれと向き直る。…初めてって言ったよな。匂いもいいにおいだけど、気を引き締めたほうがいいんじゃないか。おずおずとそれを口に含むと、そんな心配は杞憂に終わった。美味しい。



「どう?どう?」

「……まあ、悪くない」

「やったぁ!料理苦手なんだけど、頑張った甲斐があった!!」

「美味しいよ咲」

「ええ。とても美味しいわ」

「へへ、ありがとうございます」


二人にも褒められてでれぇっとだらしのない顔になる咲。取りあえず満足したらしいから、ウェイバーもカレーに手を付け始めた。



「なんだか孫が出来たみたいねぇ」

「そうだなぁ、ウェイバーに嫁が出来たみたいだ」

「ブフッ」

「どうしたのウェイバーちゃん?」

「…いや、なんでもない」

「はいティッシュ」


水色のティッシュケースを差し出されて二枚ティッシュを取り口を拭く。本当に新婚になっちゃいます?なんて言うのはちっとも冗談に聴こえない。っていうかオマエ見るからに未成年だろ。



「あと一年したら結婚出来るよ!」

「いい人が見つかるといいな」

「ウェイバーとかね!」


「あらあら、仲がいいこと」



そういって嬉しそうに笑うから、和やかな雰囲気を壊す勇気も無くウェイバーは手元のカレーの消費に専念することにした。