かみさま、きいて | ナノ

繋いだ手の柔らかさ

 


半ば引きずられるように歩く、冬木スーパーの店内。カートを押して忙しなく材料の調達に励む咲。ウェイバーも例外ではなく、現在はカレーのルーを探して店内を歩き回っている。


「…ったく、どこにあるんだよ」


無駄に広いせいで中の配置なんて考えようにも想定できない。取りあえずそれらしい場所を回っていたら、三ヶ所目で漸く目当てのものが見つかった。…しかし問題は咲の居場所だ。今どこでうろついているか分かったもんじゃない。やっぱりはぐれるべきじゃなかったかと頭を抱えていたら、偶然にもその後姿が映る。――隣に、男を連れて。


「(あいつに知り合いが居るわけないだろ)」


だとしたらナンパか。こんなスーパーでナンパするのか。シチュエーションも何もあったもんじゃないなと笑ってその背中に声を掛けると、面白いくらいビクッと肩が跳ねる



「なに驚いてんだよ馬鹿。ボクだボク」

「ウェ、ウェイバー!」

「んだよお前、この子の連れ?」

「そうですけど何か。すみませんが今買い物してる最中なんで、失礼します。行くぞ咲」

「うん!」

「おい待てよテメェ!」


ガッ、とウェイバーの肩を掴んだ男に睨みを効かせるウェイバー。もう小心者ではない、そんなんじゃライダーに笑われるし彼の臣下に相応しくないとウェイバーはこの数年で変わった。周りの客から批難の目が集まり、男は苛立たしげに舌打ちするとどこかへ去っていった。


「オマエ、迷惑だったらちゃんと言えよ」

「へへへ」

「何笑ってんだ馬鹿」

「痛ッ、」

「ほら行くぞ。あとは何を探すんだ」



えっとねー、なんて暢気に返した咲にあきれ返る。こいつは自覚っていうものが恐ろしく足りていない気がする。ていうか絶対足りてない。残りの材料を集めて会計し、袋に詰めてスーパーをでた。ちょうど空はオレンジに色づいていて、日は傾き始めている。



「うわー綺麗だね夕日!」

「こんなの見飽きるだろ」

「だって最近夕方は部屋にこもりっぱなしだったもん。外に出るのは塾くらい」

「はあ?なんでだよ」

「受験生でーす」

「あ、そ」


興味なさげに呟いてレジ袋を持ち直すウェイバー。隣で手を震わせながら袋を持つ咲を見やって溜息。見栄張って重い方を持つからだ馬鹿。心で毒を吐いてもう一度溜息をつくと、その袋を取り上げて自分の持っていた袋を差し出す。


「え?」

「ほら、受け取れ」

「う、うん」


おずおずとそれを受け取って、嬉しそうににやつく咲。ありがとう、と小さい声が聞こえたから素直じゃないウェイバーは"別に"と返す。勿論そんなことは知っている咲はより笑みを増すだけだ。あと少しのところまで差し掛かると、ウェイバーの何も持っていない左手に僅かな温かさを感じた。自分とは違って柔らかい手がきゅ、と握られていて反射的に咲に向く。


「夕方って寒いからこのくらいいいでしょ?」


減るもんじゃないし!と嬉々とした声で話して笑うものだから完全に振りほどくタイミングを失った。…だからスキンシップが激しいって言ってるだろ、馬鹿。喉まで出かけた言葉を呑みこんで繋いだ手はそのままにマッケンジー家へと歩いていった。