かみさま、きいて | ナノ

さよならの先には

 



突然消えた温もりに頭が真っ白になって一瞬死んだのかと疑うほどに無心に駆られ、呆然とした。

消えた。

咲が、ボクの前から。慌てて名前を呼んでも返事なんてない。
この狭い部屋に一瞬で隠れられる場所なんてない、そう分かっていても押入れを空けたり布団を退けてみたり居もしない場所を必死で探した。

本当は分かってる。

あいつは居るべき場所へと帰ったんだ。



「……う、…く…」


ぼたぼたと大人なのに情けない涙が落ちる。なんで、なんでこのタイミングで消えるんだ。なんで今この瞬間に消えていったんだ、さよならさえも言わずに。
胸が締め付けられそうな思いでその場に崩れ落ちたボクの頭に、ノイズがかった映像が流れてきて思考が固まる。

咲だ。

今にも泣きそうな顔をした咲が居る。



頑張って、ウェイバーにできないことは何にもないから!こんな私を幸せにしてくれてありがとう!
どんな場所でも私、ウェイバーのこと思ってるから!ずっと忘れないから!!




「ふ…、馬鹿じゃないのか」


そこに居るボクはオマエのことなんて知らないんだぞ。なのに必死に伝えようと懸命に語りかけるその瞳に更に涙が溢れかえる。

忘れない、そんなのボクの台詞だ馬鹿。


オマエみたいな強烈な奴、忘れようにも忘れられるわけが無い。
だからボクは必ず




「何年掛かってでも、オマエに会いにいくから」



今度はボクが途方も無い研究でもいいから、必ずオマエの居る世界を見つけ出して会いに行く。

もしボクの事を忘れていたら片思いから始めるのもいいかもしれない。
もう一度あの笑顔を見る為にボクは必ず見つけ出そう、オマエに繋がる唯一の道を。



「……咲、」


口に馴染んだこの名前を胸にして。