かみさま、きいて | ナノ

変わらない日常に+a

 



ライダーが居なくなってから経った時間は、ボクの中では長かったけど数字にしてみればたったの5年で周りの景色も部屋の狭さも何一つ変わらないし、同じようにその偉大な存在もボクの中では何一つ変わらない存在であり続ける。退屈なだけだったと思っていたのも、探してみれば意外にも魔術の他に興味の湧くものも多々在ったし、あいつが居た頃に見つけられてればと思うと少し虚しくなるけれども今更後悔したって仕方ないので少しずつだけど進もうと思う。

ただ、5年の歳月を経て変わった事がひとつだけ。



「ねえ、この布団なんか染みできちゃったんだけど」

「昨日まで無かったんだからオマエがつけたんだろ馬鹿」

「えーそうかな、あ。ごめん私のだこれ」


シーブリーズが漏れてたわ、と笑って見せた咲に正直溜息しか出てこない。なんでこんなにお気楽なんだよどいつもこいつも。しかもその布団洗えないし。咲相手になら(っていうか誰相手にでも)マーサさんなら怒らないだろうけど、きっと新しいのを買うだの何だの始まるから黙っておこう。それにこれだけ隣に置いてあれば自然と愛着も湧いてくるわけで。


「そういえばさ、ウェイバーってライダーのどこに憧れたの?」

「…は?」

「だってさ、あんだけ毛嫌いしてたのにいつの間にか尊敬しちゃうほど好きになってたんでしょ?そこの部分が小説に書いてなくてずっと知りたかったんだよね」


「……そんなこと、」


聞かれてみればいつからだったか。最え初は何も知りはしないくせに何事も勝手に決めるし、ボクの言うことは聞かないし、でかいし、サーヴァントのくせにボクより偉そうだし。正直こいつを召喚したのは間違いだったんではないかと思っていたけど、何時の間にか自分の口から臣下になるだなんて言っていたんだから驚きだ。――考えて、最初に浮かぶのはあの馬鹿みたいな笑い顔だ。


「なんだろうな。矮小なボクを認めてくれたから、かも」

「ウェイバーは認めて欲しかったんだもんね」

「…出来れば、一人前の朋友にしてもらえれば…とは思ったけどな」


あの場で臣下になる道を選んだのはボクだ。もし引き下がらず、あの場であくまで対等でいようとしたならもしかしたら最期の時に一緒にあの隣を走れたかも知れない。あいつのことだからきっとそうしてくれたはず。今更後悔しても仕方ないとは思うけど……って、なんでこんなに真剣に考えてんだよボクは。


「オマエ早く寝たらどうだよ」

「だって目が覚めたんだもん」

「はあ?何だよそれ」

「ウェイバー。もしウェイバーがライダーの隣に居たらね、きっと後悔してたと思うよ」

「何でだよ」

「だって絶対アーチャーに殺されたじゃんウェイバー。そしたらライダーの事を誰が語り継ぐの?それに、ライダーが残してくれた命でウェイバーは凄い人になるんだよ」

「……なんでオマエがそんなこと」

「知ってるよ。知ってる」


将来抱えた生徒はみんな王冠階位になることも、その教え子達を集めたら時計塔の勢力図になるとまで言われてることも、――なにより、あの悲しい聖杯戦争を終わらせたこともウェイバーの努力はたくさん知っている。だからそんなウェイバーを見抜いて生き残したライダーは本当に凄い人だったと思う。



「ウェイバーは本当に、人一倍の頑張りやだって知ってるからさ」




――変わった事がひとつだけ。変わり者の女が来たってこと、それだけだ。