かみさま、きいて | ナノ
少しだけ、君に優しく
なんだか拍子抜けだった。まさかウェイバーの口からそんな言葉が聞けるとは。ふわふわとした夢の中に居るような、足元が定まらないような浮遊感。ぼうっと天上を眺めたまま微動だにしない咲に痺れを切らせたマーサが問いかける。
「咲ちゃん、お夕飯お口に合わなかったかしら?」
「え、あ、いえ!すごく美味しいです!」
「そう?それなら良かったわ」
遠慮せずにどんどん食べて頂戴ね。とマーサは嬉しそうに笑った。我に返った咲は餃子に手をつけていく。美味しい。マーサさんの料理は本当に美味しい。
「オマエ、口に米粒付いてるぞ」
「っえ、恥ずかしい!どこ!?」
「右端」
人差し指で右辺りを探るがそれらしき感触がない。からかってるのか、とウェイバーに向き直ったらティッシュで口をぐりぐりされた。い、いたい。
「ボクから見た右端だっつの」
「へへ、なるほど」
にへぇ、と締りの無い顔で笑って御礼を告げる。そんな二人の微笑ましい光景にマーサとグレンは優しげな目でそれを見守る。本当に、こんなに生き生きとしたウェイバーは久しぶりだと嬉しそうに。フン、と鼻を鳴らしてご飯を一気に食べ終えると茶碗と端を台所へ下げて洗い始めた。
「これ終わったら部屋にいるから、咲は先に風呂入っちゃえよ」
「うん!待っててね急ぐから!」
ウェイバーの真似をするように口へ慌てて放り込むと、喉につっかえてむせ返る。あらあら、と困ったようにマーサが笑いグレンが水を差し出した。
「ゆっくり良く噛んで食べなさい」
「…へへ、すみません」
グレンの優しい叱咤に眉を下げて返事をする咲。今度こそきちんと食べ終わり、まだ洗いものをしているウェイバーの元へ駆け寄った。
「ウェイバーっ」
「い、いちいち抱きつくなよ馬鹿!それ落としたらどうすんだよ!」
「ごめんごめん」
「オマエのごめんはまたやるのごめんだろ」
「そうとも言う?」
ほら、と手を差し出したウェイバーに首を傾げたら茶碗だよ茶碗、ともう一度催促される。…洗ってくれるらしい。
「いいよ自分で出来るから!」
「さっさと風呂入って来いよ。ボクは眠いんだ」
「あ、そう…?ごめんね、よろしくおねがいします」
愛らしい花びらの模様に縁取られた茶碗を渡し、パタパタと風呂場へ駆けて行く咲。何してるんだ、ボクは。がちゃがちゃと溜まった洗い物を片付けていたら、マーサのお礼の言葉が聞こえてきた。
「いいよ。たまにはボクもやらないと」
………別に、悪い気はしないな。
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