かみさま、きいて | ナノ

まだ足りない

 



ウェイバーと共にゲームに明け暮れて、夕方頼まれた買い物にウェイバーは用事があると言って一人で出向いた帰り道。一緒に視た夕焼けは綺麗だったというのにどうして一人で見るものはこうももの悲しいのか。暗くなる前に帰ろう、と足を速めたが何かがおかしい。というか、嫌な予感がする。


「…はやく帰ろう」

きっとウェイバーに会えば不安なんて消し飛ぶはず。一刻も早く大好きなその姿が視たくて早足で歩くが、どんなに急いでもたどり着ける気がしなかった。怖い。何か分からないそれが怖くて仕方が無い。もう歩くことさえ煩わしくて、駆け足でマッケンジー家を目指す。早く、早く早く早く…っ。やっとその家屋が視界の端に入り込み、安心感が心をじわじわと満たし始めたとき、


「、!?」


ドアの前には小さな穴が開いていた。それも段々と大きくなり、自分に近づいてくる。その穴から見えたのは紛れも無く、自室そのものだった。――つまり、この穴に落ちてしまえばもう帰らざるを得ないということ。


「や、やだ…やだ」

じわりと目に涙が浮かぶ。やだ、まだウェイバーと一緒に居たい。帰りたくなんて無い。体は金縛りにあったように動かず、ただその穴に呑まれるのを待つだけだった。…どうして、こんな突然に。まだ離れたくない。まだ、まだ一緒に居たいのに。ぽた、と涙が地面を濡らす。ああ、もう逃げられない。段々白ばんでいく頭に熱くなった目尻。これで『終わり』なんだ。穴が目の前まで迫ったとき、無意識に零れた言葉。



「…大好き、ウェイバー」


「咲!?オマエ、馬鹿逃げろ!!なんなんだよそれはぁ!」

「うぇい、ば…」

「っああもう!」


片足が沈んだのとほぼ同時にウェイバーが私の腕を掴んで引き上げる。その拍子に買い物袋からドロップ缶が落ちると穴はそれを呑み込んで呆気なく閉じてしまった。




「…っ、うぇい…ばぁ……」

「な、おま、泣くなよ馬鹿!」

「…うう〜…っ」

「おい…、」


ぐずぐずと泣き出す私を、ウェイバーさんは少し躊躇った後に舌打ちをして袖で乱雑に涙を拭き始めた。汚いよ、と控えめな抵抗をしてみたが、どうせ洗濯するだろ。とスルーされて黙り込む。


「もう、ウェイバーに…会えない、かと…」

「………」

「そんなの、やだよぉ…っ」


まだ一緒に居たいのに、と嗚咽交じりに伝えた咲。さすがのウェイバーも眉を寄せて、必死に羞恥と闘っている様子。



「居たいなら、居ればいいだろ」



「別にボクは止めはしない、…友達、だし」


ぎゅ、と体を包み込まれて心臓が跳ね上がる。顔を上げようとしたら、こっち視るな。と釘を刺されて大人しくウェイバーの胸元に収まる。…ああ、もう、大好き。