かみさま、きいて | ナノ

人はいつだって無意識に

 



「あら咲ちゃんおはよう」

「マーサさんおはようございます!」

「昨日はウェイバーちゃんのお部屋で寝たの?」

「はい!あ、すみませんマーサさんが折角部屋に…」

「いいのよ。良く眠れたかしら?」

「ええもうそれはバッチリです!」




朝食のお手伝いしますよー!と声を張り上げてキッチンへ向かう咲。少し遅れてリビングにげっそりした顔立ちのウェイバーが入ってきた。暗いオーラをぐるぐると取り巻きながら、疲労感を隠すことなく机に伏せた。小さい溜息が聞こえる。



「ウェイバーちゃんおはよう、どうしたの?疲れてないかしら?」


「大丈夫だよおばあさん…」

「そう?それならいいんだけど…」


無理はしないでね。優しくウェイバーの頭を撫でてマーサはキッチンへ向かった。…ボクもう24なんだけど。いつまで子供扱いしてくるんだ、あいつもおばあさんも。ぐったりと冷たい机に頭を押し付けてもう一度深い溜息を吐く。この二日で逃げた幸せの総量が怖い。



「どうしたの?おなかすいた?あと少しで出来るからまってて!」

「………」

誰が空腹だ馬鹿。一体誰が原因でこんなになってると思ってるんだよオマエは。重りが伸し掛かるような鬱蒼とした気分で背凭れに体を預ける。五年分の疲労が一気に押し寄せたような、そんな思いに見舞われていたら目の前に朝食が運ばれた。



「はい、顔上げて!朝ご飯だよ」

「…ん」

「今日はねハンバーグなの。朝からちょっと豪華かな?」

「いや。別に」

「いっぱい食べたらもっと大きくなれるよ!ってか筋肉つけよ筋肉!」



ライダーみたいになりたいんでしょ、とは敢えて言わなかった。どうやら聖杯戦争の終結から五年の歳月が流れているらしいけど彼の傷が癒えているとも思えない。それに朝ウェイバーが後ろを向いてたのはないてたからって知ってるし野暮なことは言いません。夜中にうわ言のようにライダーの名前を紡いでいた彼に胸が締め付けられた。…すこしでもウェイバーの胸のうちを軽くしてあげられたらなあ。なんて出すぎだ私。



「マーサさん!お昼はオムライス作ります!」

「ええ、たまにはいいわね」


「そういえばグレンさんはどうしたんですか?」

「グレンはまだベッドの中よ。今日はゆっくりしたいんですって」

「そうだったんですか」


それじゃあ少し悪いけどお先に食べちゃいましょうか。と着席したので私もウェイバーさんの隣に腰掛ける。声を合わせて頂きますの挨拶をして昨晩作ったハンバーグに手を付ける。うん、凄く美味しい。


「ウェイバーちゃん、そういえば最近アレクセイさんからの連絡はあるのかしら?」

「え?あ、うん。携帯を買ってから時間も考えずにメールしてくるから、堪らないよ」

「うふふ。何年経っても面白い人なのね。ああ、咲ちゃん、アレクセイさんっていうのはね…」



マーサさんの口から直接きくライダー像は随分と面白かった。明るいだとか、男らしいだとか、暖かいだとか。それを聞くウェイバーもどこか誇らしげでこっちまで嬉しくなる。自分の王が称賛されるのは随分と嬉しいだろう。確かにライダーの悪いところを上げろって言われたら、パンツを履かないことくらいだ。



「懐かしいわねぇ。またお顔を見たいわ」

「あいつも忙しいからさ。また声でも掛けておくよ」



そういうウェイバーの手は微かに震えていた。こうしていつも嘘を付いてもう居ない彼の存在を語るのは随分と辛いだろうなあ。そんな姿を見ているのが辛くて、ウェイバーの手に自分の手を重ねた。はっとした表情で私に目を向ける。


「すごく素敵な人だったんだね」

「――ああ、すごく偉大なやつだったよ」



もうそんな顔しないでよ。