かみさま、きいて | ナノ

幸せの具現化

 



たとえば、何気ない朝の目覚めだとか。


「ウェイバー、起きてる?」

「……ん」


肌に伝う体温だとか。


「起きなくていいの?バイトはー?」

「…休みだ、寝かせろ馬鹿」


そういって寝返りを打つ愛しい人だとか。当たり前に近いなにかが幸せでたまらない。今こうして一緒にいる彼の存在は私にとって非常にイレギュラーなのだ。彼だけに留まらずこの家も、窓の外の景色に至るまで。



「(やっぱり、夢じゃなかったんだ)」


よ、よりによってととととリップできてしまうとは。何この俺得スキル。ただ期限が分からないからいつも不安を隣り合わせの生活になることは必須。…もしかしたら、今この瞬間に帰ることになるかもしれない。そう思うとどうしようもなく不安で仕方なくなって、その華奢な背中に抱きついた。



「なんだよ、朝っぱらから」

「…好き」


気持ちを伝えるだけでいい。そう思って焦がれた彼が居るというのに、どうしてこうも欲張りなんだ私は。一緒に居ればいるほど、一秒ごとにもっと好きになっていくんだからもうどうしようもない。鼓動も何もかも加速の一途を辿る、もうとめ方なんて分からない。ずっと居たい、愛されたい、だなんて我が儘な自分が嫌になる。



「大好き、大好きだよウェイバー」


たとえ私が貴方の前から居なくなったとしても、私の存在だけは覚えていて欲しいと願うことも禁忌なのかな。暖かな日光に照らされて次第に重くなる双眸の瞼。ふああ、とあくびを漏らして咲は目を閉じた。きっとこの瞬間も、景色も、声も、姿も、私にとって一生の思い出になるだろう。