「――どういうことだ?ライダー」


キシオウさんの問いかけにライダーは満面の笑みで返す。


「セイバーそれにランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い、まことに見事であった。あれほどに清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出てきた英霊が、よもや余ひとりということはあるまいて。

情けない、情けないのぅ!冬木に集った英雄豪傑どもよ。このセイバーとランサーが見せつけた気概に、何も感じるところがないと抜かすか?誇るべき真名を持ち合わせておきながら、コソコソと覗き見に徹するというのなら、腰抜けだわな。英霊が聞いて呆れるわなぁ。んん!?見えぬ敵に己の誇りを折らず立ち向かう、たかが小娘の姿に何も思うことはないと抜かすのか!!」


そうしてひとくさり豪笑したあとに、ライダーは挑発するようにこの空気を震わせた。



「聖杯に招かれし英霊は、今!ここに集うがいい。なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」


その、大きな堂々たる背中に春子は心をふるわせた。なんと偉大な人だろうと。この場に隠れ潜む連中にとっては馬鹿だと笑われるかもしれない、しかしそんな連中にこの堂々と姿を見せて立ちはだかる彼を笑う資格はあるのだろうか。春子の心にはいいようのない高揚が込み上げた。そして漸く落ち着きを取り戻してきたウェイバーの体を抱き締めて、困惑したように見上げるウェイバーに笑いかける。


「ウェイバーさんの方が、あんな人よりも何億倍もカッコいいです」

「……っ」



ライダーさんが吼えたてた直後、黄金の光は現れた。ライダーさんの挑発によって出てきた、第四の英霊であることはこの場にいる誰もが理解していよう。ウェイバーが思わず息を呑む。

「あいつは……」


以前一度だけ視た、圧倒的な強さを持ってアサシンを刹那の間で殺した謎のサーヴァントに他ならない。全身をくまなく甲冑で覆った重装。光り輝くその金色の立ち姿。ウェイバーは頭の中で冷静に分析した結果、その人物が三大騎士クラスのアーチャーと判断した。


しかし、誰より一番驚きを隠せないのは春子だった。


「……ギルさん…」


「我を差し置いて"王"を名乗る不埒者が、一夜のうちに二匹も沸くとはな」


侮蔑するように、不愉快気に歪められた口元。その冷酷で無慈悲な眼差しは、どうもあの人物と同じとは思えない。…否、思いたくなかった。

「難癖つけられたところでなぁ……イスカンダルたる余は、余に知れ渡る征服王に他ならぬのだが」

「たわけ。真の王たる英雄は、天上天下に我ただ独り。あとは有象無象の雑種にすぎん」


「そこまで言うんなら、まずは名乗りを上げたらどうだ?貴様も王ならば、まさかおのれの威名を憚りはするまい?」


その言葉に、ギルさんはますます倣岸な怒りを帯びてライダーさんを睨み据える。一瞬あたしと目が合って、些か目を見開いたがどうやらライダーさんに気付いた様子は無い。


「問いを投げるか?雑種風情が、王たるこの我に向けて?

我が拝謁の栄に浴してなお、この面貌を見知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すらない」


ギルさんの左右の空間に、ゆらりと歪みが現れた。そこからゆっくりと誰に取り出されるわけでもなく、自然と出現した剣と槍。美しい装飾に、これは相当なものなのでは…と場違いに考えた春子。そして今一度ギルがメッシュと目が合った春子の体が宙に浮いた。


「ちょ、え!?ウェイバーさん…!」

「おい春子っ、」


慌てて春子の手を掴もうと手を伸ばしたウェイバーだが、それは物凄い速さでギルがメッシュの元に退けた為に何も掴めずに手を下ろした。春子の足元を彩るのは金色一色。ウェイバーもライダーもこれには平常で居ることが出来なかった。


「ぎ、ギルさむぐぐ」

「愚か者。この場において我の名を呼ぶでない」

「じゃあ何て呼べば…」

「アーチャーだ。我に据えられたクラスである、そこなる雑種等と同じだ」



雑種…とは。前から気になっていたけど雑種ってなんだ。あれか、元をただせば外国の血も混ざってるんだろ的な感じか。先ほどの態度なんてぽかんと忘れてアーチャーと話し込む姿に、ウェイバーを始め驚嘆しないものはいなかった。


「春子!オマエ、アーチャーと組んでたのかよ!!」

「組んでる?ちょ、違いますウェイバーさんギッ…ごほん、アーチャーさんとは何回かお話した仲のだけであたしは浮気なんてそんな…」

「浮気に至る関係でもないわ馬鹿!大体勝手に関係を変えるなよ!」


知り合いだ!と声を荒げたウェイバーに、アーチャーがピクリと眉を動かす。そして愉しそうにウェイバーに問いを投げた。



「そこなる雑種、貴様は春子の所有者ではないと申すか」

「所有者!?」

「…あ、ああそうだ。ボクはただの知り合いだッ!」



ふいっと顔を逸らしたウェイバーさん。ツンデレだ。さすがウェイバーさんツンデレ健在だ美しい。しかしその言葉を聴いた瞬間ギルさんは顔を更に愉しそうにゆがめた。


「ならば我が所有物に貴様を加えてやろう」


「…はい?」




おっしゃる意味がよく分かりません。by春子


 


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