それは突然だった。あたしの中を突如として廻る悪寒。オカンと同じ読みだというのになんという奇怪な響きなのだ。ぞわぞわするような、背筋がぞっとするような。 「ウェイバーさん…あたしは不安です」 「は?何だよいきなり」 「ウェイバーさんが!もしかして浮気しているのではないかと不安でゴファッ」 「浮気も何もオマエとボクは他人だ!ただの知人!」 「ひ、否定しないんですか!!憎き悪女めぇ…。あたしのウェイバーさんをたぶらかした野郎はどいつですか!絞め殺す!!」 「物騒だなおい!ボクは女なんかに興味ない!」 「よもや病気ではないのか坊主」 「うるさい!」 うーむ。ウェイバーさんが浮気していないなら一体なんだこのぞぞぞとする感じは。はらはらドキドキするような緊張するような、よろしくないことが迫るような。 浮気相手が迫ってるのかと思ったけど、まさか…!! 「妊娠!?」 「ブッ」 「ウェイバーさんとの記憶が無いなんて!いやもしくは想像妊娠とういうやつでは」 「馬鹿なことばっか言ってるな!」 「やだウェイバーさんおやじギャグですか?かーわいいー」 「ああああ令呪令呪!こいつを黙らせろライダー!!」 「すまんなあ、余も歳には勝てないらしい。耳がどうにも遠くて適わん」 「味方…ボクの味方はどこに居るんだ…」 「なんか、悪寒がするんですウェイバーさん」 「は?」 「嫌な予感がするんです」 なんだろうこの感じ。体中の血が騒ぐような喚くような。…同じか! 内側からじわじわ食われる、取り込まれる。そんな錯覚さえするほど宜しくない感じ。 「ウェイバーさ」 ん。 ドクリと心臓が脈打って最後の一言を口にする前に、視界いっぱいの骸が見えた。 止め処なく流される深紅の液はまごう事無く転がり落ちる人の血だ。 様子のおかしい春子にウェイバーが問いを投げるが不意に外から聞こえた火薬の爆ぜる音が思考を塗り替える。 「ライダー!」 「…うむ」 外に放った使い魔の目に映る映像がそっくりそのままウェイバーの視界に映る。 それは第四次聖杯戦争幕開けの合図であった。 ――つまるところ、七人のマスターとサーヴァントが出揃ったらしい。 「始まったな」 「何がですか?」 「聖杯戦争だ」 覚悟はしていたが、たった今この時よりウェイバーの命は保証されたものではなくなる。 春子は胸騒ぎの正体がこれであったと気付き、緊張した面持ちでごくりと唾を飲み込んだ。 |