「ホントあいつ全然戻らないじゃないか!」

「うむ。…冬木の治安は低下の一途を辿っておる。よもや小娘とて例外とはいくまいな」

「なにかあったって言いたいのかよ!」

「なんだ坊主、心配なのか?」

「そりゃ、…死なれたら後味が悪いだろ!」

「そうさな。そんなに気に留めるならば探しに行けば良かろうに」

「あーもう分かってる!!」


壁に掛けてあるパーカーを取り、いつものセーターの上に羽織る。
不機嫌さを隠す事無く放出しながら玄関に向かい扉を開けると、居た。

酒の匂いを帯びてぐっすりと眠る春子の姿が信じがたいことに玄関の前に横たわっていたのだ。
けれどその下には体を汚さないように豪華な、それこそ紀元前と言っても可笑しくない見た目の布が敷かれていた。


「っ、こいつ今まで何して…!!」

ぐっと少し強く、けれども起こさないように配慮しながら春子を起こし敷かれていた布を拾ってウェイバーは家内へと戻った。
すぐさま二階から降りてきたライダーに少女の身を渡して疲れたような、けれどどこか安心したような面持ちで二階へと少し遅れて入っていく。
春子の体をウェイバーのベッドに下ろしたライダーにウェイバーが問いを投げた。


「おい、そこはボクのベッドだぞ」

「眠りに着く女子を床にでも放る気か、坊主」

「そんなの元々こいつが…っ!」

「良い良い。言い分は明日聞いてやろう、余はもう寝る」

「おいライダー!!」

「大声を出すな。小娘と共にベッドかソファとやらで寝るがいい」


そう言って床に転がったライダーに眉をしかめつつも観念して、自分のベッドに向き直った。


(マッケンジー夫妻が起きたらややこしいだろ…)

ソファに寝るすなわち一階に行く。ということはあの老夫婦を起こすというリスクを背負わなければならない。

…これが普通の相手ならばウェイバーは不本意つつも寝ただろう。
しかし目の前の女は筋金入りの変態だ。情けないが襲われたというのも冗談には聞こえない。たやすく想像できてしまうのだ。

ならばもう逃げ道は一つ。

ベッドに背を向けて、緊急時用の寝袋を取り出す。
ライダーに潰されない場所にそれを広げて中に納まれば、なんだか目頭が熱くなるのを感じた。



「(…もう二度と心配なんてするもんか、馬鹿)」



弱弱しい声が終ぞ誰かの耳には届かなかった。


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