ゲシュタルトパーン


右足を上げる。前に踏み出す。左足を引っ張って押し出す。そして右足を、そして呼吸を、そして円堂くんと叫ぶ。何度叫ぶ。走りながら叫ぶ。心の底から中から隙間から有り余る思いの丈を打ち崩しながら喉が裂けてそこから新しいきやまひろとが生まれてしまうくらいに叫ぶ。
「円堂くん、円堂くん、円堂くん、円堂くん、えん、」

基山ヒロトは足を止めた。叫ぶのをやめた。動くのをやめると至極真っ当な疑問が浮かんできた。えんどうくんとは何者だ? 今まで自分はがむしゃらにその言葉を叫んでいた。ということはよほどの思い入れがあるのだろう、善きにつけ悪しきにつけ、その推量は外れていないはずだ。歩きだした。歩きながら考える。えんどうくんとは何者だ? 目の前がフラットになってきた。髪の先がじりじりと痛い。頬骨が破裂しそうなほど痺れている。知らず知らず、指先は震え、立っていることさえままならない。誰も見ていないことを確認してへたりこんだ。えんどうくんとは何者だ?

誰かが、自分の名前を呼びながら遠くから走って来る。その声に顔を上げた。オレンジのバンダナが見えた。本当に、それだけでよかった。




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