えんじドイツフラグの頃
(前サイトのリサイクル)



先ほどから妙な具合に背骨同士がぶつかっていて、気になる。砂木沼は口にこそ出さないものの、いつの間にか丸まっていた背筋を伸ばした。もたれかかっている熱が一気に下降する。ずるずると滑り落ちた感触のこそばゆさに思わず顔をしかめた。円堂は何も言わない。起きあがって、再び砂木沼の背中にもたれかかった。
どうしてさよならなのか分からないんだ。ランニングの途中で偶然―とは言い切れない、なんとなく、彼の帰宅ルートを意識していた節はある―出会った円堂は、唐突にそう呟いた。無理やり作った笑い顔は夕日による逆光でよく見えなかった。それなら笑う必要もないではないか、とありのままのことを言ったらうなだれてしまったので、仕方がなく家まで送ることになった。あくまで仕方がなくだ。このままでは無事に家に辿りつけるか分からないほど、円堂は憔悴していた。手首をつかんで引きずっていく。大きくて固い掌に似合わず、細い手首だった。
またどこかへ行ってしまう。また、遠くてよくわからない場所に。また会えなくなってしまう。もしかしたらもう会えないかもしれない。俺はそんなの嫌だ。もっと一緒にサッカーしたい。もっと一緒に学校に通いたい。ずっと雷門の、俺たちの、エースストライカーでいてほしい。ずっと一緒の友達でいてほしい。恐らくはこういった弱音を吐きたかったのだろうと砂木沼は推測する。豪炎寺がドイツに留学するという事実のみを告げた円堂はそれきり黙ってしまった。本当に喋らない。いつもの様子からは想像もできないような寡黙ぶりのあまり、泣きそうでかわいそうだとか、親友が離れていってしまって寂しいだろうとか、本当にたまに思う、笑顔がそれなりにかわいらしいだとか、そういう感情が沸き起こってこなかった。ただ、何も言わないのは気に食わない、と思った。理由は分かっている。代表内のことを代表選考にすら呼ばれず、挑戦した揚句返り討ちにされた砂木沼に言うのはどうのこうのとよくもない頭で考えているのだろう。下らない。まったくもって下らない。砂木沼は立ちあがった。円堂はそのままひっくり返り、頭を床にぶつけてしまった。

「お前の前からいなくなるのは、一人の人間だ」
「サッカー選手である前に、日本代表である前に、お前の友人だ」
「くだらないことを考えるな。潰れたいのか」

一体誰に打ち明けられただろうか。誰か、打ち明けるに足る人間がいただろうか。さみしい、と言って泣き始めた円堂をかがみこんで抱きしめる。ずいぶん前に沈んでしまった夕日に代わり、藍色の静けさが部屋全体を覆いつくして、涙と鼻水まみれの幼い顔を隠している。下らないと思う。見えないならば笑顔も泣き顔も必要ない。




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