「私と君とではうまくいかないと思う。性格が違いすぎる。私は多分、君の前向きなところにいつまでもついていけないだろうし、君は多分、私の後ろ向きなところをじれったく思うことだろう。私はどちらかといえば諦めがいい。諦めなければいけないことを知っているし、そうした方が時としてうまくやれることも分かっているから。でも君は諦めないだろ、どんなときも立ち上がって、なんとかしようとする。私は、君のそういうところが少し痛々しくて、まあそれが、先述したついていけないということについての具体的な理由だ。それに、それに、私は」

「涼野! ごめん、よく聞こえない…どうしたんだ?」
「いや、なんでもない。」

駅前のビルが一つ取り壊されるらしい。重機がゆっくりと建物に食らいつく、がらごろと言う音が張り巡らされたシート越しに聞こえてくる。二人は連れ立って駅周辺を歩いていた。別に約束があったわけではなく、商店街奥のスポーツ用品店で偶然に会っただけだ。座りこんでスパイクを眺める涼野の肩を、円堂が叩いた。二人は、駅の近くにあるアイス屋まで春季限定フォルテッシモファイアメガマックス苺アンド白桃クレープを食べに行くことにした。これを提案した涼野に円堂は、甘いもの好きなんだな、と笑う。俺も好き、と笑う。その顔を見て涼野も、ほんの少しだけ頬を緩めた。
「ここ、次、なに建つのかな」
一語一語を区切りながら、円堂が声のボリュームを上げて、隣に立つ涼野に問う。分かるはずもなく、さあね、と返した。聞こえなかったらしい。首をひねっていたが、顔を見て知らないのだと判断したようだ。深く尋ねてくることはなかった。しかし、先ほどの長い独り言についてはやはり気になったようで、円堂はアイス屋に向かって歩き出す同行者の服の裾を軽くつまんだ。工事現場の目の前である。シーツの前に設置された騒音を示す機械が一段と高い数値を刻んだ瞬間を、つままれて立ち止まった涼野は視界の端でとらえた。

さっきは に  て   ?
「君には関係ない」
気に る  ってば 
「私は君が好きだけど、」
す の?
「君には関係ない」

未だに裾をつかんだままの円堂の手首をつかみ返す。顔を見た。いつもの明るさが嘘のように、静かな瞳をしている。そのまま強く引き寄せた。バランスを崩した円堂の耳元で囁く。君には一生教えない。




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