「おんなじ高校だな」
「そうだな」
「砂木沼先輩っていうことになるのかー」
「そうなるな」
「早く始まらないかな、高校」
「あと一週間待て」
「練習参加しちゃだめか? 砂木沼せんぱーい」
「駄目だ」
「けち!」
「何とでも言うがいい」
「ふけがお…」
「怒るぞ」

道路を覆わんばかりに枝を伸ばす桜は、昨夜の雨でだいぶ散ってしまっていた。朽ちかけの桃色が道路の一隅にかたまっている。夕暮れの橙に照らされ、花弁にしみ込んだ雨水がひりひりと光る。砂木沼と円堂は、緩やかに続く坂道の終わりに、そんな景色を見た。振り返ると眼下に広がる街並み。ここだけではなくおそらくはこの国中にありふれた光景。しかし、その光景のを構成する一粒一粒に人がいて、生活がある。再び歩を進めながら、二人とも言葉にはしないが静かに感じていた。この街は唯一だ。それでもって、他の場所も同様に唯一だ。それゆえに限りなく別個だから、そんな中でお互いがこうして好きあっていられるのはおそらくとても重要でやわらかくて有難くて息苦しくていとおしいことなのだろう。来週、円堂は高校生になる。この坂道をもう少し進んだ先にある高校に通う。砂木沼は既にそこに在学しており、今辿ってきたのとは別の道を通り、彼もまた毎朝高校に足を運ぶ。二人だけではなく、多くの人が。同じ中学から、近隣の中学から、はては、そう、宇宙のかなたからも。

「ヒロトたちも、ここなんだってな」
「ああ」
「そっかー…それじゃ、なおさら早くサッカーしたいな」
「そうだな。奴らもそればかり言っている」
「楽しみだ」

校門の前まで来た。二人は足を止める。来週からよろしくお願いします。ぺこりと頭を下げる円堂の髪を、砂木沼は乱雑に撫でた。こいつをどうかよろしく頼む。一教育機関たる高校に向かい、二人はしばらく面を上げないまま、そこに立っていた。



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