夏弥くん(♂夏未さん)のちょっとした性癖



僕の初恋は、実に強い人に捧げた。いや、捧げている最中だ。思いが通じるとは考えていない。むしろ「あのこと」に気づいてからというもの、僕は自分の気持ちを相手に伝えたくなくなってしまった。そしてただ側で見守るだけの愛がある、あればいい、あるはずだ、なんて考えている。相手の名前は円堂くんという。僕より一つ年下で、サッカー部のキャプテン。まっすぐな目と狂気まがいの博愛心を持つ、少年だ。
彼へのとある欲求に気づいたのは、エイリア学園なるものを打ち倒すために旅をしていたときだった。真夜中、キャラバンの屋根に座り込んではらはら泣いている彼を見たとき。声もなく歎いている、かわいた茶色の目を見たときだった。
それまで、僕はできることなら彼を幸せにしたいと思っていた。彼と幸せになりたいとも。でも、わかってしまった。
(大声をあげて、泣いてくれたらいい)
僕だけのために。言えるはずもなくすごすごと寝床に戻り、朝を待った。別に吐き出すことで心が軽くなるから、とか、相談してほしい、頼りにしてほしい、とか、そういうわけじゃない。実に単純な欲求だ。ああ、泣かせたい。もっとひどい言葉で彼を追いつめてみたい。最低だ。じりじりとした瞼の裏の熱は冷めることなく彼を泣かせるための言葉を編み出していく。こんな風な自分は嫌だ、もっとあたたかな恋がしたい、なんて殊勝な気持ちはしれっとした顔で僕のもとからはぐれていく。
(…彼を、幸せに出来ないなら、僕は)
(冷たい結末しか待ってないなら、死ぬまで黙っておけばいい。それくらいならできるはずだ)
またいつか会おう。僕の苛烈なこいごころ。
(「おやすみ、夏弥」ちらりと聞こえた。幻聴だけど。)




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